航海士になるには?航海士の仕事内容や年収・やりがいを解説
2023.03.08
航海士は、高校生の皆さんの中には映画や漫画の世界で見かけることはあっても、現実にある仕事と結びついていない人もいるかもしれません。航海士は大型船舶の運航を管理する仕事で、特に海や水産業が身近にある人以外は知る機会もないでしょう。航海士は人の命や貨物を乗せて安全に海を渡るという大役を任されている一方、やりがいがあり好待遇も見込める仕事です。
この記事では、航海士になりたいという人のために、航海士の仕事内容ややりがい、必要な資格についてまとめています。ぜひ参考にしてみてください。
目次
航海士とは
航海士は階級によって担当する仕事が変わります。
船長:船の最高責任者です。気象や海の状況をもとにした進路決定、出入港時の操縦指示、緊急時の対応などが主な仕事です。船長になるには、海技士免許1級を取得する必要があります。
一等航海士:主に船のデッキを統括するのが仕事です。積み荷の管理や作業現場での指示、船の運転手と交代で操縦にもあたる、航海当直も担当します。船長が休んでいるときの船長代理も、一等航海士の役割です。一等航海士になるには、海技士免許2級を取得する必要があります。
二等航海士:一等航海士と同じく航海当直を担当します。GPSやレーダーなどの航海機器や海図の管理も行い、船長と共に航海計画の立案に携わります。
三等航海士:救命設備や防火設備の保守管理、整備などがメインの仕事です。航海日誌の記録や書類の管理も含まれます。一等・二等航海士と同様に当直も担当するほか、船の出入りが多い港では船の出入港をサポートする案内人を船内に迎える役割もあります。
航海士の具体的な仕事内容や、働き方、1日のスケジュールなどを紹介します。航海士として働く具体的なイメージを思い描いてみましょう。
航海士の仕事内容
航海士の仕事は大型船舶の安全な運航管理全般で、大きく「航海」と「荷役(にえき)」に分けられます。
「航海」は海をわたることを意味し、船の操縦やデッキ(甲板)の管理、および速度計など航海に必要な計器の整備のことです。「荷役」は貨物を目的地まで無事に届ける役割で、貨物を積むところから船上での保管、港で無事におろすまでの業務全般を指します。
「航海」では、下記のような船を操縦します。
・一般貨物船
・客船
・タンカー船
・コンテナ船
・木材運搬船
・自動車専門船
・冷蔵運搬船
・クルーズ客船・フェリー
航海士と機関士の違い
航海士になるには国家資格である海技従事者免許を取得する必要がありますが、同じ会議従事者免許が必要な仕事に「機関士」があります。いずれも「船舶職員」に該当し、船の運航を司る人全般を指します。
どちらも船の操縦にかかわる仕事ですが、実は分野が大きく異なります。海技従事者免許の国家資格には「航海分野」と「機関分野」があります。「航海分野」に合格したら航海士、「機関分野」に合格したら機関士になります。
船舶職員には「甲板部」「機関部」「無線部」があり、「甲板部」を担当するのが航海士です。船の操縦、荷物が目的地に届くまでをサポートするのが主な仕事です。大型船舶の場合は航海士の乗船が義務づけられています。
一方機関士は、「機関部」で機関長と共に働く仕事です。機関長のもとで船の操縦や機器の管理をおこなうのがメインで、「船のエンジニア」といったところです。
航海士も機関士も1~3級の階級があり、階級によって任される場所やシフトが変わってきます。航海士は船の操縦が終わっても甲板の管理などの仕事があり、基本的に当直制です。一方機関士は船の停泊中、必要な作業がなければ待機になります。自由時間をゆっくり過ごすことができます。
航海士のやりがい
航海士になるには実習や国家試験が必要であり、海上での勤務も長期間にわたります。激務をこなすモチベーションとして、やりがいを感じられるポイントを知っておくといいでしょう。
お金がたまりやすい
航海士は特殊な勤務形態のためお金がたまりやすい傾向にあるため、やりがい を感じている人は多いようです。
海上勤務する場合、外航船の場合は9ヵ月ほどの長期になることに加え、船によっては食事が支給されるなど 衣食住が提供されるので、お金を使う機会が減って貯まりやすいです。海上勤務はリスクが大きい分、様々な手当がつくため高収入も期待できます。
長い海上勤務の後には3ヵ月ほどの長期休暇が得られるため、旅行や習い事など 使いたいときに使えるお金があることも魅力といえるでしょう。
日本経済を支える仕事と実感できる
多くの場合、海に携わる仕事がしたい、人の役に立つ仕事がしたい、という想いで航海士を目指した人が多いようです。
例えば 無事に貨物を海外に届けたとき、橋を架ける工事に船員として関われ たとき、自分が海を股にかける大きな仕事をしている、と充実感 を得られるのが航海士のやりがいのひとつです。
綺麗な景色を見られる
長時間海の上を走っていると、陸上では見られないような満点の星空や、真っ青 な水平線を見られます。船上から美しい景色を見たとき、「航海士になってよかった」と感じられるでしょう。
航海士の仕事の流れ
航海士は船に乗るのが仕事です。船の運航は数日から数ヵ月におよぶこともあります。
一般企業のように毎週休みはありませんが、たとえば9ヵ月 の航海が終わると3ヵ月 の休暇がもらえるように、運航期間に応じた休みがもらえるようになっています。航海中は仕事に集中し、長期休暇は思い切りリフレッシュできるのが、航海士の仕事の特徴 のひとつです。
航海士の1日のスケジュール
航海士は船の操船を含む、航海を順調に進めるための業務全般が仕事です。船は24時間動き続けているので、スケジュールはほかの航海士との交代もあり不規則になります。しかし毎回海に出ているわけではなく、陸上で勤務する日もあります。海上と陸上のそれぞれのスケジュールをまとめてみました。
【海上】
時間 | 内容 |
7:00 | 起床 練習船に乗る実習生の場合は、6時30分起床です。 |
7:30 | 朝食 |
8:00 | 当直業務担当時間(4時間) この時間帯は基本的に海に目を向け、レーダー等も確認して進路上に異常がないかどうかを見張ります。担当時間は等級によって決められています。 |
12:00 | 昼食 |
13:00 | 当直以外は自由時間(8時間)。 大抵の場合、航海士ごとの担当業務を行います。設備の確認や入港作業、緊急作業を行い、船が安全に運航できる体制を整えています。 |
16:00 | 自由時間 |
17:00 | 夕食 このときの自由時間に仮眠をとる人もいるようです。 |
20:00 | 当直業務担当時間(4時間) 海に目を向け、海図と照らし合わせて進路が合っているかの確認を行います。 大きなゴミが流れてきたり、クジラが飛び出してきたりすると避けなければいけないので、早めに動けるように常に海を見張っていなければいけません。 |
0:00 | 就寝 1年のうち数ヵ月は航海するので、数ヵ月間このようなスケジュールが毎日続きます。 ※航海日数は配属先によって異なります |
【陸上】
陸上の場合、勤務時間は9:00~17:00です。
陸上勤務の内容は所属会社によって異なりますが、船舶管理や貨物をおろすときのオペレーションをおこなうことが大半です。ときにはイベント管理や技術開発、配属先によっては学校へ赴いて船に関係する授業を行うこともあるようです。 所属会社によっては、陸上勤務の内容は事前の希望調査で決まることもあります。
航海士の年収
航海士の年収は所属する場所によって異なりますが、20代であれば年収500~600万円ほど、大型船の船長になると年収2,000~3,000 万円に達することもあるといわれています。
安全な航海のために危険を伴う仕事であるため、一般企業に比べて高い給料が設定される傾向にあります。海上勤務と陸上勤務を繰り返すのが通常ですが、海上勤務の場合は乗船手当が付与されます。
航海士の就業先として代表的なのが海運会社と海上保安庁で、どちらも初任給は22~24万円程度です。しかし、航海が数ヵ月続く場合はお金を使う機会が限られるため、貯金しやすいという人も多いです。
海上保安庁は国家公務員の俸給表が適用され、階級によって年収の額が変わります。そのため勤続年数が長くても、階級が低ければあまり年収があがらない可能性もあります。一方で海運会社は、階級に加えて勤務年数によって収入が上がっていく 傾向にあります。
海上保安庁に勤める海上保安官については下記を参照ください。
海上保安官になるには
航海士に必要な資質と能力
航海士になるために、必要とされる資質や能力を3つにまとめました。
1.健康な心身
海上での勤務が長い航海士は、健康な心身であることが重要です。長時間海の上で揺れる船に乗っていられるよう、船酔いしない体質である必要があります。
また、海上では基本的に4時間勤務が2回、間に合計8時間の休憩をはさむ勤務形態の繰り返しです。階級によっては早朝や深夜のシフトになることもあるので、不規則な勤務形態に耐えられるような健康な体であることも重要です。
万全の体調で勤務できるよう、常に自身の健康管理に気を配っていることが求められます。
2.集中力
航海士はいつ何が起きても対処できるよう、集中力をもって業務に取り組む必要があります。
特に海を見張っているときは、何も異変がないことが続きます。しかし万が一のとき眠っていて対処が遅れるのを防ぐため、当直中の航海士が眠気に襲われないよう、当直室には椅子を用意しないようにするなど工夫して、集中力を保つ努力をしています。
3.強い精神力
航海士は人や荷物を安全に運ぶ仕事なので、異変があったときの判断など緊張感のある場面も多くあります。万が一のとき臨機応変に対応できる、強い精神力が求められます。
安全な航海のための膨大な計器のチェックや航海の記録といった日々の細かな業務を、継続する忍耐力も必要とされるでしょう。
また、航海士の仕事は精神的にも体力的にも厳しい仕事です。厳しい仕事を乗り越えられるくらい「海が好き」であることも、航海士として必要な資質といえます。
航海士になるための方法とは
航海士の世界の現状
船海士の数は従来に比べて減っているといわれていますが、海外からの輸入や輸出に頼っている日本にとって海上輸送は必要不可欠なので、航海士も必要とされる仕事です。
また、航海士の仕事はリスクが高い分、好待遇でやりがいも感じられる仕事です。階級が上がれば給料もアップするので、安定した収入が見込めます。
航海士に必要な資格や受験すべき試験
航海士は「海技士(航海)国家試験」で1〜 6級の海技士免許(航海)を取得する必要があります。船長になるには1級、一等航海士になるには2級を取得しなければならないので、上を目指すのであれば資格勉強は必須です。
海技士国家試験を受験する条件は、資格に応じた乗船履歴です。船員教育を行っている大学や専門学校であれば、乗船実習期間を乗船履歴に含めることができます。そのため、航海士になるには学校選びも重要といえるでしょう。
航海士になるための勉強ができる大学・学部
航海士になるには、船舶職員を育てる教育機関で学ぶのが一般的です。教育期間の種類は大学から短大、高等専門学校や技術学校などさまざまで、文部科学省や国土交通省が管轄している機関もあります。
基本的に各学校のカリキュラムを規定どおりにこなせば、卒業と同時に海技士資格(航海)3級や4級の受験資格を得られます。授業内容によっては、筆記試験を免除できることもあるようです。
船舶職員のための学校は限られているので、授業内容や通学期間などで選ぶといいでしょう。
大学
4年間の大学生活の中で、6ヵ月の乗船実習を行います。卒業後さらに6ヵ月の乗船実習を経て、海技士(航海)3級の受験資格を得られます。
航海士の受験資格を得られる大学や学校 、学部・学科は、主に下記のとおりです。
大学名 | 学部・学科 | 学べる内容 |
海上保安学校(国土交通省所管) | 船舶運航システム課程 | 法学、政治・政策学、国際関係学、語学、栄養・食物学、機械工学、航空・船舶・自動車工学、システム・制御工学、電気工学、電子工学 |
水産大学校(水産庁所管) | 海洋生産管理学科 | 物理学、生物学、バイオ・生命科学、森林科学・水産学、環境科学、航空・船舶・自動車工学、画像・音響工学、環境工学 |
東海大学(私立) | 海洋学部 海洋理工学科 航海学専攻 | 総合政策学、語学、物理学、機械工学、航空・船舶・自動車工学、システム・制御工学、情報工学、通信工学 |
東京海洋大学(国立) | 海洋生命科学部 | 生物学、バイオ・生命科学、農学、森林科学・水産学、地球・宇宙科学、環境科学 |
海洋工学部 | 機械工学、航空・船舶・自動車工学、システム・制御工学、情報工学、通信工学、電子工学、経営工学 | |
海洋資源環境学部 | 生物学、バイオ・生命科学、森林科学・水産学、地球・宇宙科学、環境科学、エネルギー・資源工学、環境工学 | |
神戸大学(国立) | 海洋政策科学部 | エネルギー・資源工学、機械工学 、航空・船舶・自動車工学、システム・制御工学、情報工学、電気工学、電子工学、経営工学 |
短期大学
2年の履修期間を経て、海技士4級の受験資格を得られます。船舶職員向けの短大は「海上技術短期大学」と呼ばれ、大学と同様に高校卒業後に入学できます。
日本にあるのは下記の4校です。
● 宮古海上技術短期大学
● 清水海上技術短期大学
● 波方海上技術短期大学
● 小樽海上技術短期大学
高等専門学校
航海士になるための高等専門学校は、「商船高等専門学校」です。中学卒業後に入学でき、4年6ヵ月 の座学と1年の乗船実習を経て、卒業後に海技士3級の受験資格を得られます。
海上技術学校
より早く航海士として働きたい、という人におすすめなのが海上技術学校です。中学卒業後に入学でき、3年履修して卒業後に6ヵ月 の乗船実習を行うと、海技士4級の受験資格が得られます。
水産高校
水産高校は、水産・海洋教育に重点を置く高校です。「水産に関する学科」が設置されているところが大半ですが、学校によって設置されている学科が異なり、名称も「海洋高等学校」と改名しているところがあるなど、決まったルールがないので見つけるのに苦労するかもしれません。
航海士になるために目指すべき就職先
航海士を募集している代表的な就職先をまとめてみました。参考にしてみてください。
海運会社(船舶会社・商船会社)
航海士の就職先のメインとなるのが、船舶会社や商船会社です。海運会社とも呼ばれ、船を使って貨物や人を運びます。
代表的な海運会社は日本郵船、商船三井、川崎汽船の3社です。
海上保安庁・海上自衛隊
航海士は、海上保安庁や海上自衛隊にも就職できます。公務員なので資格が必要になりますが、全国各地で海上の安全を守る仕事です。海難救助のほか、海洋調査などの仕事もあります。
調査研究船・漁船
深海・海洋生物の生態などを調査する調査研究船や、長期にわたる運航が基本であるマグロ漁船 への乗船といった仕事があります。調査研究船は海洋研究をおこなっている大学や独立行政法人に就職 すると乗船できます。マグロ漁船に乗るには造船所や水産会社に就職すると良いでしょう。
航海士になった後のキャリアプラン
航海士はやりがいもあり将来性も見込める仕事です。試験を受験して等級を上げていくことはできますが、その先のキャリアプランとしてどのような選択肢があるのかをまとめました。
船長
航海士の多くは、階級を上げて多くの乗船を経験し、順調にキャリアを積ん でいけば船長になれます。
船に関わる仕事は、大きく分けて国内輸送専門の「内航船」と海外輸送専門の「外航船」の2つです 。内航船の場合は教育機関を卒業後、四級海技士免許を取得して航海士の道を進み始めます。外航船の場合は三級海技士免許を取得し、三等航海士として就職するのが一般的です。
三等から二等、一等航海士へと順調に昇進すると、早くて30代、大抵の場合は40代で船長になれるといわれています。
また、航海士の仕事は海上だけでなく陸上にもあります。昇進する過程で、陸での船舶管理や技術開発といった仕事を経験し、海運のプロフェッショナルとしてキャリアを積んでいきます。2年は陸で、次の5年は海上で、といったサイクルで仕事を行うようです。
管理職
船長になって経験を積んだ人の中には、その経験を活かして所属する海運会社などで船舶や人員の管理職に就く人 もいます。特に大手企業では、管理職として海上勤務と陸上勤務を数年おきに繰り返すこともあります。航海士、船長と船の運航全般を見てきた経験があれば、現場への適切な指導ができるでしょう。
水先案内人
水先案内人は正式名称を「水先人」といい、港に入ってくる船を迅速に誘導する海のプロフェッショナルです。海外から入って来た大型船など、その港に不慣れな船が到着したときに、入港のサポートを行います。
水先案内人になるには国家資格が必要です。水先案内人は海運業について充分な知識と経験が求められる重要な仕事であるため、大型船の船長などを経験した人が定年後に選ぶ仕事として知られています。近年は後継者不足などの理由から制度が改正され、高校もしくは大学で必要な経験を積み、水先案内人の資格をとれば就職できるようになりました。
水先案内人の等級は三級から一級までありますが、一級になるまでには少なくとも15年はかかるといわれています。しかし水先案内人は65歳以上でも就業可能なので、健康に問題がなければ長く務める人も多いようです。
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航海士は海の上で人の命や貨物を安全に運ぶ、重要な役割を持つ仕事です。島国である日本を支える ために欠かせない仕事であり、これからも必要とされ続けるでしょう。責任やリスクが伴う分、高収入や長期休暇など好待遇な点、日本の経済を支えているという充実感 、航海士だからこそ味わえる体験などがやりがいにつながります。
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