逆引き大学辞典逆引き大学辞典

法務教官になるには?求められる資質や能力・仕事内容について紹介

2023.05.17

カテゴリー:
少年を更生させようとする法務教官

高校生のみなさんの中で、法務教官という仕事を知っている人はいるでしょうか?法務教官とは、少年院や少年鑑別所で働く専門職員のことです。非行に走ってしまった少年が、社会に復帰できるように教育、指導するのが法務教官の主な仕事です。実際にどのような職業なのか、仕事内容をお伝えすると同時に、求められる資質や能力についても紹介します。

法務教官とは?

学力指導をする法務教官

法務教官は、少年院や少年鑑別所で働く法務省専門職員です。国家公務員の採用試験の1つである「法務省専門職員試験」に合格した人が、法務教官になれます。法務教官の仕事は、少年事件に該当する非行を起こしてしまった少年に対して、社会復帰のサポートをすることです。社会に適応できなくなってしまった問題はどこにあるのか、どうすれば社会復帰できるのかを考えながら、指導・教育します。

法務教官は、具体的にどのような仕事をする人なのでしょうか?法務教官と名前が似ている法務技官との違いについても解説していきます。

法務技官との違いは?

少年院や少年鑑別所で少年たちのサポートを行う職業には、法務技官という職業もあります。法務技官は、医師・認定心理士・臨床心理士などの資格を持っている専門家のことです。主に少年の精神鑑定や心理分析・心理テスト・カウンセリングなどを行います。

法務教官が、少年たちが社会的な生活を送るうえでの指導や教育を行うのに対し、法務技官は精神面でのサポートや少年たちの心理状態を明確にするのが仕事です。

同じ場所で働く職員でも、少年たちへのサポート内容が異なるということです。

法務教官の仕事内容

法務教官の仕事内容は、少年院と少年鑑別所で異なります。少年院と少年鑑別所がどのような場所なのかも含めて、それぞれの場所での仕事内容について解説していきます。

・少年鑑別所
少年鑑別所は、非行を起こしてしまった少年の審判を進め、処分を決定するために必要な心理検査や面接を行う場合に保護・身柄拘束する場所です。最長1ヶ月収容されます。少年鑑別所で審判の結果を待ち、社会の中でも更生が難しいと判断された場合に、少年院に収容されるという流れです。

少年鑑別所に勤める法務教官は、少年が安心して裁判所での審判を受けられるように、法務技官と協力して少年の心を安定させるのが役目です。相談に乗ったり、少年に対して助言をしたりして審判を待つ少年と関わります。

また、少年の問題性はどこにあるのか、改善の可能性はあるのかを探るために面接を実施。面接時の少年の様子資料にまとめ、少年の審判や処分がくだされた後の少年院や保護観察の際に活用できるようにします。保護観察とは、少年院に入らずに社会の中で更生を行う制度です。社会生活の中で更生が可能だと判断された場合に行われる処遇です。

つまり少年鑑別所は、非行に走ってしまった少年がどのような処遇を受けるのか?少年院に入る必要があるのか、専門職員に観察された状態で社会の中で生活できるのか、少年の未来が決定するまでに一時的に身を置く場所です。

・少年院
少年院は、少年事件を起こした少年が、社会生活の中では更生が不可能だと判断された場合に、家庭裁判所から送られてくる場所です。少年院に送られてくる少年は、「保護処分」の決定がくだされ、法務教官の指導・教育のもと更生を図ります。少年院は、原則2年以内の期間が定められています。

少年院では、少年たちが更生できるように、法務教官が5つの矯正教育を行っているんですよ。

  1. 生活指導:自立した生活をするための知識・生活態度・集団行動を教える
  2. 職業指導:働く意欲をわかせ、職業で活かせる知識・技術を教える
  3. 教科指導:基礎学力向上、義務教育の実施、高校卒業程度認定試験の受験指導
  4. 体育指導:基礎体力向上のための指導
  5. 特別活動指導:社会貢献活動、野外活動、音楽

少年院では、少年たちが社会で生きていけるように、法務教官が先生となって指導します。非行に走ってしまう原因の中には、家庭や学校環境が悪いことから、自分を守るために不良の仲間と仲良くしたり、悪いことに手を染めてしまったりすることもあるでしょう。そうした少年たちが、社会に戻って心も身体も健康で生きられるように、法務教官は健全な物の見方や考え方などの生活指導を中心に行います。また、少年院を出てから学校や職業に就いても生きていけるように、学力指導や職業指導も行います。

・刑事施設
法務教官は、少年院や少年鑑別所以外に、刑務所などの刑事施設で勤務する場合があります。その場合は教育専門官として再犯防止の教育を行ったり、矯正研修所で刑務所、少年刑務所、少年院、少年鑑別所等で働く矯正職員に対して研修を行ったりします。

法務教官のやりがい

法務教官は、非行に走ってしまった少年たちを教育・指導する大変な仕事です。事件を起こしてしまった少年は、誰にも理解してもらえないと心を閉ざしてしまいます。なかには、自暴自棄になってしまう少年もいるでしょう。法務教官はそうした少年たちと向き合い、少年たちの心の中にある闇に触れ、ゆっくりと心の壁を溶かしていきます。

法務教官の仕事は、心に闇を抱えた少年を相手にするため、自分が努力をすれば問題が解決できるとは限りません。どれだけサポートをしても信じてもらえず、少年の心が離れていってしまう時もあるでしょう。そのような大変な仕事だからこそ、全力で向き合って、何度もぶつかりあった少年との間に信頼関係ができたときには、大きなやりがいが感じられます。

自分のことを信頼し、少年から「勉強を教えてほしい」「少年院を出たらこんなことがしたい」と話してくれるようなった時には、向き合ってよかったと思えるでしょう。また、そうしてぶつかり、全力で向き合い指導した少年が、少年院を出て無事に社会復帰できた時には達成感が得られます。

一度事件を起こしてしまった少年は、少年院を出て社会に戻っても、理想とのギャップに打ちのめされて犯罪を繰り返してしまう人もいます。そうした社会問題を理解しているからこそ、再犯を防ぐための指導・教育が成功した時にはやりがいが感じられる仕事なのです。

法務教官の働き方

少年院や少年鑑別所で働く法務教官は、24時間体制で少年たちと向き合います。一般的な職業とは異なり、勤務する曜日や時間帯が決まっておらず、交替制勤務です。昼間の勤務と、昼夜勤務で働きます。

1週間あたりの勤務時間は38時間45分となっており、1週間のうちの2日休みです。シフト制のアルバイトをイメージするとわかりやすいかもしれません。ただし、緊急時には休みの日に少年と関わったり夜間の保安警備を行ったりする場合もあります。非行に走ってしまった少年たちと真剣に向き合う、ハードな仕事であることは覚えておきましょう。

法務教官に必要な資質と能力

少年とゴミ拾いをする法務教官

法務教官の仕事について見てきました。非行に走ってしまった少年と時間をかけて向き合い、更生ができるように手助けする法務教官には、どのような資質や能力が求められるのでしょうか?法務教官の仕事に興味を持っている高校生のみなさんが、今から必要なことを備えられるように解説していきますね。

人の気持ちに寄り添える

少年院や少年鑑別所に来る少年たちは、さまざまな辛い過去やハンディを持ち、心に闇を抱えています。中には、親から愛情を与えてもらえず、居場所がなくて非行に走ってしまった人もいるでしょう。法務教官は、そうした背景を持つ少年たちの心を理解し、「どうすれば心の闇を取り除いて、社会で普通に生きられるだろうか?」と考えて指導しなければなりません。自分の主観や、決められた指導方法だけを行っていても、少年たちを更生させるのは難しいでしょう。

自分の主観ではなく、相手の気持ちに寄り添って行動できる人は、少年たちの心を深く理解して必要なサポートができます。例えば、学校で友達が人の物を盗んだり壊したりした時に、「そんなことしたらダメだ!」と注意して、一方的に非難するだけでは相手の心中を理解することはできません。その時の友達の様子や、友達との関係性にもよりますが、例えばこのように寄り添ってみてはいかがでしょうか?

友達が人の物を盗んでしまった時、まずは「どうして盗ったの?」と友達の口から理由を聞いてみましょう。一度質問しただけでは、「欲しかったから」「なんとなくやってみた」というような曖昧な答えが返ってくると思います。その時に「そっか、欲しかったんだね。確かに、それすごく格好いいよね!でも、自分で同じものを買おうとは思わなかったの?」というように、友達に寄り添いながらも本当に思っていることを優しく聞いてあげてみてください。そうすれば、友達も自分の中の本当の感情や言葉を伝えやすくなると思いますよ。

こうした場面に遭遇した時は、「どうすれば、相手の気持ちに寄り添えるだろうか?」と考えてみるだけでも大きな一歩です。普段から「悪いことをした人が悪い!」と決めつけるのではなく、相手の立場になって考えることを習慣にすると、人の気持ちに寄り添える人になれますよ。適切なアドバイスをするというよりかは、相手の悩みや気持ちに共感してあげる姿勢が大切です。

どんな時も平常心を保ち冷静に判断できる

少年院や少年鑑別所にいる少年の中には、上手くいかないことや、気に入らないことがあると暴れたり暴言を吐いたりする人もいるでしょう。さまざまな事情を抱えた少年たちだからこそ、法務教官が優しく指導をしたからといって大人しく言うことを聞くとは限りません。

何を言っても、何回言っても聞き分けが悪く、嫌な言葉を投げかけられる時もあるでしょう。そのような時に、感情的になって怒鳴ってしまうと少年たちは余計に心を閉ざして、暴れるようになってしまいます。トラブルと常に隣り合わせの環境で働くため、どのような時も冷静に最善の方法を考え、判断できる人が求められます。

学校でも、先生の言うことを聞かずに悪いことばかりする子はいませんか?そのような生徒に先生が注意や怒ることはあっても、感情に任せて怒鳴ったり手をあげたりすることはないですよね。

嫌なことを言われたり、上手くいかなかったりすると、平常心を保つのは難しいかもしれません。相手のためを思って言った言葉が嫌味に捉えられたり、「放っておけ」と突っぱねられたり、反対に悪意を向けてきたりといった嫌な状況に遭遇することもあるでしょう。法務教官は、非行に走った少年を相手にするからこそ、相手が予想と違う行動をしてくることはたくさんあります。頭を抱えたくなる状況が続きますが、その度にこちらが感情的になっていては、悪いことの繰り返しです。向こうが悪いことをしてきたからといって、法務教官が冷静さを欠いてはいけないのです。日常生活でも、怒っている人に怒り返してしまうと、ヒートアップして問題が解決するどころか悪化してしまいますよね。

トラブルが起きた時には、まずは一度深呼吸をして、頭の中を整理することを習慣にしてみてください。一呼吸おいて冷静になる時間を設けると、普段から感情的にならずに冷静に自分の思いを伝えられるようになりますよ。友達や家族と喧嘩した時や、嫌なことをされた時は、「こうしてほしい」「これは嫌だ」と伝えるようにしてみてください。そうすれば、感情的にならずに問題を解決できるようになりますよ。

コミュニケーション能力

法務教官には、コミュニケーション能力が必要不可欠です。非行に走ってしまった少年の更生をサポートするには、法務教官が少年たちに歩み寄らなければなりません。少年たちに信頼してもらい、辛い過去や苦しみを聞いてあげるためには、日頃から十分なコミュニケーションをとる必要があります。

自分から話しかけ、話しやすい空気を作り、相手の話を最後まで聞いてあげる力が必要です。何度無視されてもへこたれずに少年との信頼関係を作れる力が、法務教官に求められます。

また、法務教官はチームで少年たちをサポートします。同じ職場で働く人たちとも円滑なコミュニケーションをとり、相談ごとがあった時にすぐに助けを求められる人は、法務教官に向いているでしょう。

高校生の今のうちから、クラスに馴染めずに一人で孤立している子や、悪いことばかりしてクラスメイトから避けられてしまっているような子に、勇気を出して話しかけてみてください。「話しかけづらいから」「この子と一緒にいたら変な目で見られるかも・・・」と感じる子は、話しかけられることに慣れていません。最初は突っぱねられたり、嫌な言葉をかけられたりするかもしれません。それでも挫けずに話を聞いてあげると、信頼関係ができ、仲良くなるほどに辛いことや苦しいことを話してくれるようになりますよ。最初は勇気がいることではありますが、高校生の今のうちから挑戦しておけば、少年たちから信頼される法務教官になれますよ。

根気強さ

法務教官は、根気強さが求められる仕事です。法務教官の仕事は、少年と誠実に向き合い、サポートを施したからといって、必ず報われるとは限りません。心を開いてもらうだけでも、膨大な時間がかかるでしょう。人によっては、どれだけ辛抱強く寄り添っても受け入れてもらえない場合もあります。辛い背景を持つ少年に寄り添う仕事だからこそ、すぐに結果が得られるものではありません。そのような仕事でも、少年が社会復帰するために忍耐強く手を差し伸べ続けられる人は、法務教官に向いているでしょう。

高校生の今のうちから、勉強や部活などで難しい問題にぶつかった時に「自分なら絶対にできる!」と信じて、諦めずに挑戦してみてください。困難にぶつかっても諦めずに乗り越えることを習慣にすると、結果が見えないものにもチャレンジし続けられる根気強い人になれますよ。

法務教官になるための方法とは?

法務教官を目指して勉強する大学生

法務教官になるには、国家公務員試験の1つである法務省専門職員採用試験(法務教官区分)に合格する必要があります。法務教官は、高卒や中卒でも試験に合格すればなれる職業です。しかし、法務省専門職員採用試験は大卒程度の難易度の試験なので、大学卒業後に法務教官を目指す人がほとんどです。

法務教官になるための勉強ができる大学・学部

法務教官が少年たちの更生をサポートするには、心理学や教育学の知識が必要です。少年たちの心の闇を理解し、その問題に寄り添ったサポートやコミュニケーションの取り方をするためには、人の心理を理解する必要があります。心理学部で人の心理を専門的に学ぶことで、少年がどのような思いでそうした行動をとっているのかを根拠を持って理解することができます。

また、法務教官は少年院では少年たちの先生として矯正教育を行います。生活面の教育だけではなく、学力向上のための教育も行います。学校の先生のように教員免許が必要な仕事ではありませんが、子どもを教育するうえでの知識は欠かせません。

法務教官を目指すうえでおすすめの大学・学部をいくつかご紹介します。

  • 就実大学(岡山県) 教育学部:初等教育学科、教育心理学科
  • 九州大学(福岡県) 教育学部:教育学系、教育心理学系
  • 鹿児島純心女子大学(鹿児島県) 人間教育学部:教育・心理学科
  • 福岡大学(福岡) 人文学科:教育・臨床心理学科

教育学部の中でも心理学科がある大学では、教育学と心理学の両方が学べますよ。

法務教官に必要な資格や受験すべき試験

法務教官になるには、人事院が行う法務省専門職員(人間科学)採用試験の中の「法務教官A及び法務教官B」を受験する必要があります。男性が法務教官A、女性が法務教官Bに分類されます。試験内容はどちらも同じです。

1次試験:基礎能力試験、専門試験
2次試験:人物試験、身体検査、身体測定

基礎能力試験は、公務員に必要な基礎的な能力に関する一般常識問題です。専門試験では、法務教官の仕事をするうえで必要な心理学、教育学、福祉及び社会学に関する問題が出題されます。

2次試験では、面接で対人能力や人柄が確認され、一般的な身体検査が行われます。法務教官は体力勝負でもあるため、内科系や視力、聴力などで問題がないか確認されるのです。法務教官を目指す高校生のみなさんは、大学で専門試験に関連する分野を学び、身体検査で引っかからないように健康第一に過ごしましょう。

法務教官になるために目指すべき就職先

法務省専門職員(人間科学)採用試験に合格すると、「法務教官採用名簿」に名前が入ります。採用試験に合格するだけで、法務教官になれるわけではありません。試験に合格して法務教官の国家資格を取得したら、自分が働きたい管轄区域で行われている面接を受ける必要があります。

面接に合格すると、法務教官として働くことができます。ただし、管轄区域内にあるいずれかの施設に配属されるため、自ら就職先を決めることはできません。

  • 少年院
  • 少年鑑別所
  • 刑事施設

法務教官として採用されると、上記のいずれかの施設で働くことになります。

法務教官になった後のキャリアプラン

法務教官として採用されると、矯正研究所支所で「基礎科研修」を受け、必要な知識や技能を学びます。法務教官は、平成21年4月1日に改正された国家公務員法により、能力主義で昇任が決まります。そのため、勤務年数や合格した採用試験の種類にとらわれず、成果をあげた人が報われる能力・実績主義を徹底しています。昔ながらの年功序列のキャリアステップではないので、頑張れば頑張るほど道が開けますよ。

内閣官房が定める能力をはかるための人事評価のポイントは、「職員がその職務を遂行するために発揮した能力」「職務上発揮することが求められる能力」に照らし合わせた能力評価と、「職員が果たす役割を目標として設定し、目標を果たした程度を評価する」実績評価です。

法務教官は、昇任の道を歩みやすく、ステップごとに研修制度が用意されています。採用から4年以上勤務した人は、専門性を上げるために、「応用科研修」を受け、専門官への昇進を目指せます。

基礎科研修と応用科研修に合格した後は、高等科研修で将来の幹部候補生を目指すことができるんですよ。高等科研修を受けるには、高等科入所試験の選抜試験に合格する必要があります。合格した人だけが高等科研修で幹部候補生としての能力を高められ、実績を上げた人は統括専門官(課長相当)、首席専門官、施設長というようにステップアップが可能です。

また、法務本省や矯正研究所で勤務することもできます。矯正職員として働く人たちをサポートする側になれるので、法務教官になった後のキャリアの幅は広いですね。

法務教官への進路を「JOB-BIKI」で検索してみよう

法務教官は非行に走ってしまった少年たちが、更生して社会生活できるように手助けする仕事です。未来ある少年たちをサポートできる仕事なので、やりがいが大きい職業です。

法務教官に興味を持った人は、高校生の今のうちに法務教官の勉強ができる大学・学部を調べてみてはいかがでしょうか?心理学・教育学部の大学の中でも、自分の興味ある内容が学べる学科はさまざまです。

「JOB-BIKI」の大学検索で「教育」「心理学」などと検索すると、学べる大学が一覧で見つけられますよ。まずは情報収集していきましょう。

よく読まれている記事

タグで記事を絞り込む