家庭裁判所調査官になるには?求められる資質や能力・仕事内容を紹介
2023.05.24
高校生のみなさんにとっては、家庭裁判所調査官は耳馴染みのない言葉でしょう。家庭裁判所調査官は、家庭内で起きたトラブルや少年事件を調査するのが主な仕事です。
この記事では、そんな家庭裁判所調査官になるための方法や仕事内容、求められる資質や能力について紹介します。家庭裁判所調査官を目指すための勉強ができる大学・学部についても解説するので、参考にしてくださいね。
目次
家庭裁判所調査官とは?
家庭裁判所調査官は、家庭内の問題や少年事件の調査を行い、裁判官に報告するのが仕事です。起きてしまった問題の経緯や原因を調査し、正しく判断するために、心理学や教育学、社会福祉学などの知識や技法を使って、当事者や関係者から話を聞いていきます。
家庭裁判所調査官は、家庭裁判所に勤める裁判所職員の国家公務員です。家庭裁判所では、家事事件と少年事件を担当します。
家事事件とは、離婚などの夫婦間でのトラブルや、子どもへの虐待、親族間の争い事など、家庭内でのトラブルにより生じる問題のことです。少年事件では、少年法に基づいて20歳未満の人が起こした事件を取り扱います。
家庭裁判所調査官がどのような人か、イメージできたでしょうか?次は、詳しい仕事内容について紹介していきますね。
家庭裁判所調査官の仕事内容
家庭裁判所調査官は、家庭裁判所で取り扱う事件を調査し、調査報告書として裁判官に提出します。裁判では、調査官が作成した調査報告書にもとづいて、裁判官が審判をくだします。つまり、調査官の調査が裁判の結果を大きく左右するということです。そのような重大な調査官の仕事内容は、家事事件と少年事件によって異なります。
・家事事件
離婚問題やそれに伴う財産分与や慰謝料請求、子どもの親権争いや遺産相続争いなど、家庭内の争い事である家事事件 では、当事者はもちろんのこと、家族や関係者からも話を聞きます。あらゆる角度から話を聞き、これまでの家庭内での事情や、なぜ今回のような問題が起きてしまったのかを客観的に整理するためです。調査を終えたら、裁判官や裁判手続に関する記録などを行う書記官と協力して解決方法を探します。
子どもの親権を争っている場合は、調査官が子どもと直接会って、本人の思いを聞きとります。離婚問題では、当事者同士がヒートアップしてしまい、子どもを二の次に考えるケースも少なくありません。そうした場合に、子どもの思いを調査官が聞きとり、双方の両親と裁判官に伝えることで、どのような結果が子どもにとって幸せな道なのかを考えられるようになります。
親権争い中は、両親のために元気に振る舞っている子どもや、自分の気持ちを隠している子どももいるでしょう。そのような子どもたちの真意を聞き取り、子どもの幸せを最優先に考えたアトバイスをするのも調査官の仕事です。
また、児童虐待に伴う事案では、学校や保護観察所、児童相談所などと連携を取りながら調査を進める場合もあります。
・少年事件
少年事件では、事件を起こしてしまった少年が立ち直るために必要な対策を考えるのが調査官の役目です。そのために調査官は、少年の性格や普段の行動や過ごし方、取り巻く環境や生い立ちなどを調査します。
少年から直接話を聞き、事件を起こしてしまった理由や経緯を尋ね、保護者とも面談を行います。必要に応じて、少年の性格や心理状態を把握するために心理テストを行うこともあるんですよ。また、少年の家庭での様子や学校生活の状況を知るために、自宅や学校を訪ねることもあります。
また、少年事件には「試験観察」という決定があり、最終的な処分を先送りにし、社会の中で普通に生活をする中で、一定期間家庭裁判所調査官が観察・指導をしながら判断するものです。この期間内に非行を繰り返さないように、家庭裁判所調査官は少年の生活を援助します。
事件再発防止と立ち直れる環境を作るために、児童相談所や保護観察所、学校と相談しながら、生活しやすい環境の土台作りをしていくのです。
家庭裁判所調査官は、このような役割も担うため、心理学や教育学、社会福祉学の知識が必要です。
家庭裁判所調査官のやりがい
家庭裁判所調査官は、離婚問題や非行に走ってしまった少年が立ち直るための対策を立てるなど、人の人生に関わる仕事です。人生の転機ともいえる場面に立ち会い、当事者たちがより良い未来へと歩めるようにお手伝いするのが調査官の役目です。
・問題解決の手助けができた時
家事事件では、当事者や身近な人たちだけでは解決できない問題を取り扱います。例えば、家事事件で多い離婚問題では、感情的になって話し合いが成立しない夫婦を相手にする機会もあるでしょう。子どもがいるご家庭の場合は、離婚に伴った親権争いも多く行われます。
そのような問題の時に、調査官が子どもの意思や関係者からの思いを伝えた結果、冷静に話し合いを行えるようになった時にはやりがいが感じられます。家事事件では、問題解決の手助けができた瞬間や、トラブルが落ち着いて子どもの笑顔が見られた時にやりがいが感じられるようです。
・少年の更生をサポートできた時
少年事件では、少年の立ち直りに向けた支援を行っているなかでやりがいが感じられます。非行に走ってしまった少年は、更生のためにサポートをしても、取り巻く環境やこれまでの自分の行動、事件後の周りの目などから、立ち直るのは難しい問題です。
調査官は、そうした少年の心を理解し、向き合っていきます。少年の小さな変化や成長を認め、我が子のように向き合うなかで、不良仲間と縁を切ったり、非行を行わなくなったりした時には、やりがいが感じられるでしょう。少年事件に携わる調査官は、担当した少年が社会の中で成長していく過程を見られるのが、やりがいにつながるようです。
トラブルと向き合うからこそ、解決の方向へと進んでいく中での当事者の表情の変化が見られるのは、調査官にとって大きなやりがいとなるのです。
家庭裁判所調査官の仕事の流れ
家庭裁判所調査官の仕事内容を、少しはイメージできましたか?ここでは、家庭裁判所調査官の仕事の流れを紹介します。取り扱いが難しく、未知の部分でもある少年事件を担当する場合の調査官を例に解説していきますね。
1.事前準備
家庭裁判所調査官は、事件の調査を行う前に、調査仮説と調査計画を立てます。少年が非行に走った経緯や動機、普段の生活状況などが書かれた記録を確認し、事件内容や少年と家族に関することを整理します。事実にもとづいて調査仮説を立てたら、調査に必要な計画を立てていくのです。
2.調査
調査仮説と計画にもとづいて、必要な調査を行います。調査事項・調査方法・調査対象は、少年の状況によって変わっていくものです。調査官が行う調査について、1つずつ整理していきましょう。
・調査事項
調査事項は、何について調査をするのかを明確にするものです。主に、少年事件の調査では以下の内容を調査します。
①非行事実
②被害に関する事柄
③生活状況
④学校や職場との関係性
⑤性格・心身の状態
⑥家庭環境
⑦交友関係・地域環境
これらの事柄を調べることで、なぜ少年は非行に走ってしまったのか、経緯や原因を知るきっかけを掴めます。
・調査方法
家庭裁判所調査官が行う調査方法は、主に3つあります。
①事件を起こした少年との面接
②保護者との面接
③家庭訪問や学校訪問
家庭裁判所調査官は、警察署で行うような取り調べは行いません。あくまでも少年の話に耳を傾け、事件を振り返らせたり被害者の気持ちを考えさせたりします。一方的に「君が悪いことをしたんだ!」というような決めつけや、責めるような発言はしません。
少年がどのように事件を受け止めているのか、またこれまでの自分の取り巻く状況や、これからの将来の目標などに関する話を行います。そうした話をするなかで、少年が悪いことをしたと受け止められるようになり、更生へと踏み出していけるようにサポートするのが調査官の役目です。
保護者との面接では、保護者が少年とどのように関わってきたのか、これまでの生活状況などを質問します。そのうえで、事件が起きてしまった背景や、今後家庭内のサポートで更生できるかどうかも尋ねます。
自分の子どもが事件を起こしてしまうと、ショックを受ける人や、「自分は関係ない」「面倒みきれない」と責任を逃れようとする人もいます。そうした保護者には、子どもの非行は親にも責任があることを自覚させ、少年に対する指導の仕方をアドバイスします。面接は少年と保護者それぞれに行う場合と、同時に行う場合があります。
3.評価・分析
調査を終えたら、得られた事実にもとづいて、事件を総合的に判断します。評価・分析で判断する内容は、少年に科すべき処遇の種類についてです。処遇の判断材料となるものは、少年の再非行を防止するために必要な働きかけと、少年の様子です。
4.報告
家庭裁判所調査官の評価を終えたら、裁判官に結果を報告します。結果は、調査で得た情報を専門的な観点から分析し、評価したものを少年調査票にまとめて提出します。
少年調査票には、非行内容や家族と少年の特性や、調査官の処遇意見などを書くものです。少年調査票に記載した内容は、審判の場でも直接調査官が裁判官に伝えます。
家庭裁判所調査官の想定年収
家庭裁判所調査官の気になる年収は、厚生労働省が行う「令和3年賃金構造基本統計調査」によると、約945万円です。家庭裁判所調査官は、家庭裁判所で働く国家公務員のため、年収相場は高くなっています。人の人生を左右する責任ある仕事ともなれば、その分の対価も大きくなるでしょう。
実際、国家公務員の平均年収は約667万円です。国家公務員の中でも、年収が高い職業だといえます。国家公務員にはさまざまな職業があります。家庭裁判所調査官のほかに、どのような仕事があるの?と気になった人は、国家公務員の記事もあわせて読んでみてくださいね。
https://www.gyakubiki.net/readings/employment/924/
家庭裁判所調査官に必要な資質と能力
少年事件や家庭内のトラブルを取り扱う家庭裁判所調査官になるためには、どのような能力が求められるのでしょうか?これから家庭裁判所調査官を目指すみなさんに、必要な資質と能力についてお伝えしていきますね。
責任感
家庭裁判所調査官が行う調査は、裁判官が審判をくだすうえで重要なものです。特に少年事件の場合は、調査報告書の内容が、少年の処遇に大きな影響を与えます。直接判決をくだす立場ではありませんが、大きな影響力を伴う仕事です。
そのため、「ただ話を聞いていればいい」「自分の主観で決めたらいいだろう」と、自己判断で無責任な行動をとる人には向いていません。自分の言動が人の人生に影響を与えるのだという自覚を持ち、責任を持って仕事を行える人は向いています。
根気よく取り組む姿勢
家庭裁判所調査官には、根気よく取り組む姿勢が求められます。少年事件を取り扱う調査官の場合、事件が起きた原因や背景をつかむためにさまざまな調査が必要です。状況によっては何度も面談を重ね、何度も学校や家庭訪問を行う時もあるでしょう。
少年への面談時では、なかなか心を開いてくれず、何も話してくれない状態が続くこともあります。そのような状況でも、調査官は少年が事件の背景や思いを語れるように、少年の心に寄り添ってあげなければなりません。しびれを切らして「どうして何も話さないんだ!」と怒鳴りつけてしまうと、少年はより一層心を閉ざしてしまいます。
また、離婚問題ではどちらも自分の言い分を譲らずに、話が進まない時もあります。そのような時に「もう妥協したらどうですか?」などと言ってしまうと、当事者の怒りを買い、余計に問題がこじれてしまうかもしれません。
そのため調査官には、どのような状況下でも根気よく取り組む姿勢が求められます。
人に対して気配りができる
家庭裁判所調査官は、警察官や検察官のように事件を捜査する人ではありません。あくまでも起きた問題をもとに、「どうすれば上手くいくのだろうか?」「何をしてあげるのがいいのだろうか?」と、その人たちの未来のために手助けできる方法を考えるのが役割です。
他人のことを思いやり、人に対して気配りができる人は家庭裁判所調査官に向いているでしょう。高校生の今のうちから、自分のことだけではなく友達や家族のために自分ができることを考えてみてください。例えば、普段親が家事をしてくれているならば、「手伝って」と言われる前に「お皿洗うね」と先回りして行動するのもいいですね。他にも、疲れている人がいたら代わってあげる、学校で困っている人がいたら声をかけてあげるなど、気配りをする習慣を作ると、人に対して自然と気配りできる人になれますよ。
傾聴力
傾聴力とは、相手の言葉を聞き取り、相手が本当に話したい奥底に隠れた気持ちを引き出す力のことです。カウンセリングなどに用いられる技法で、心理学をもとに相手の気持ちを読み解きます。
家庭裁判所調査官は、さまざまな場面で人の話を聞き取ります。表面上の言葉だけで納得していては、人が本当に思っている気持ちや真意は掴めません。話している言葉に注目するだけではなく、会話中に見せる表情や仕草から相手の本心を汲み取る力が必要です。
心理学やカウンセリングについて詳しく知りたい人は、心理カウンセラーの記事も参考にしてみてくださいね。
https://www.gyakubiki.net/readings/employment/853/
客観的に判断する力
家庭裁判所調査官は、家事事件の当事者、少年事件を起こした少年から直接話を聞く機会がたくさんあります。起きた問題によっては、同情の気持ちが芽生えることもあるでしょう。それ自体は素敵なことですが、自分の気持ちが先走ってしまうと、客観的に物事が見られなくなります。
感情移入をしすぎてしまう人は、家庭裁判所調査官の仕事は難しいかもしれません。自分の感情に流されず、事実にもとづいて冷静に判断できる力が必要です。
家庭裁判所調査官になるための方法とは?
家庭裁判所調査官になるには、裁判所職員採用総合職試験(家庭裁判所調査官補)に合格しなければなりません。この採用試験を受けるには、大学卒業以上の学歴が必要です。試験に合格すると、家庭裁判所調査官補として採用されます。
家庭裁判所調査官補として採用された後は1年間「裁判所職員総合研修所」で研修を受けます。その後採用された裁判所で1年間の実務補習を受けた後に、家庭裁判所調査官として任官するという流れです。採用されても、すぐに調査官として働けるわけではありません。しっかりと研修を受けて、知識や技術を身に着けたうえで調査官として活躍できるようになるのです。
家庭裁判所調査官になるための勉強ができる大学・学部
家庭裁判所長官は、少年事件や家事事件を取り扱うなかで、人の心に寄り添い、相手の心を理解するために心理学の知識が必要です。また、非行に走ってしまった少年が立ち直る手助けをするためには、少年の心を理解して教育していく能力が求められます。子どもの成長や社会で生きていく上でのサポートや教育が必要になるため、学校の先生になるわけではありませんが、教育学や社会福祉学の知識も欠かせません。
また、家庭裁判所調査官が家事事件や少年事件を取り扱う際は、法律に則って分析や評価を行います。そのため、法律面の知識も必要です。
そのため、家庭裁判所調査官になる人は、心理学・教育学・社会福祉学・法律学・社会学が学べる大学に進学される人が多いです。
ただし、調査官の仕事をするまでに行われる2年間の研修では、家庭裁判所調査官の仕事を行ううえで必要な知識や技術が学べます。大学では、上記で紹介した調査官に必要な知識の中から、興味関心がある分野の知識を深めておくのがよいでしょう。
家庭裁判所調査官に必要な資格や受験すべき試験
家庭裁判所調査官の採用試験である「裁判所職員採用総合職試験」には、大卒程度区分と院卒者区分の2つの試験があります。
試験は、1次試験と2次試験と約1ヶ月程度の間隔をあけて行われます。
- 1次試験「基礎能力試験(多肢選択式)」
- 2次試験記述試験「政策論文試験」、「専門試験」
- 2次試験面接試験「人物試験Ⅰ(個別試験)」、「人物試験Ⅱ(集団討論及び個別試験)」
Ⅰ次試験で得点の高い人から順番に合格が決まります。最低限必要な素点を下限の得点とし、それに満たない試験種目が1つでもあると不合格となる難しい試験です。
2次試験の専門試験では、心理学、社会学、社会福祉学、教育学、法律学などの分野から問題が出題されます。大卒区分、院卒区分共に試験内容は上記の通りです。
ただし、院卒区分は基礎能力試験が大卒区分よりも時間と問題数が少なくなっています。また、専門試験では大卒区分では出て来ない問題が出題されるなど、僅かな違いが見受けられます。
家庭裁判所調査官になるために目指すべき就職先
裁判所職員採用総合職試験に合格し、裁判所職員総合研修所での研修を終えたら、全国にある家庭裁判所の中から希望勤務地と試験の成績を考慮したうえで、就職先が決まります。
家庭裁判所は全国に50箇所あり、203箇所の支部と77箇所の出張所があります。家庭裁判所調査官として任官されると、この中のいずれかに配属されるのです。
家庭裁判所調査官になった後のキャリアプラン
家庭裁判所調査官として配属されると、小規模庁に3年、中規模庁に3年というように人材育成のために転勤があります。はじめは小さな規模の家庭裁判所で経験を積み、その後少し規模の大きな場所で経験を積むという流れです。
異動が行われる場所は家庭裁判所だけではなく、家庭裁判所の上にある高等裁判所に異動する場合もあります。高等裁判所は、家庭裁判所や地方裁判所などで、裁判の内容に不服があったものを取り扱う立場にある裁判所です。家庭裁判所よりも、より慎重に取り扱わなければならない事件を取り扱う機会も多いでしょう。
家庭裁判所調査官からのキャリアアップは、勤続年数に関わらず選考によって管理職へと昇進します。「主任家庭裁判所調査官」、「次席家庭裁判所調査官」、「首席家庭裁判所調査官」の順にステップアップしていくのです。
また、調査官としてだけではなく、事務官として裁判所の事務局に異動になる場合もあります。調査官として任官された後も、裁判所内のさまざまな仕事に携わる機会があるでしょう。
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家庭裁判所調査官は、家庭内のトラブルから起きる家事事件や、未成年の少年が起こしてしまった少年事件を調査する仕事です。高校生のみなさんと同じくらいの少年が、事件を起こしてしまうこともあるでしょう。事件に関わる人たちの人生に関わる仕事のため、責任が重い仕事です。しかし、そのような少年の立ち直りや、更生に向けて一緒に歩んでいけるのが家庭裁判所調査官の大きなやりがいでもあります
家庭裁判所調査官の仕事に興味がある人は、高校生の今のうちから心理学・社会福祉学・法律学・教育学・社会学と調査官に必要な知識が学べる学部について調べてみましょう。自分の興味のある学部はどれか、その学部が学べる大学はどんなところがあるのか?ぜひ、「JOB-BIKI」の就職先検索から「家庭裁判所」と検索してみてください家庭裁判所で働いている先輩たちが、どのような大学で学んでいたのかがわかりますよ。