食品衛生監視員になるには?仕事内容ややりがい、気になる年収を解説
2023.07.13
食品衛生監視員は、公務員として食の安全と安心を守る仕事です。日本の食品は約6割を輸入に頼っていると言われており、輸入される食品を監視して安全を確保するのが食品衛生監視員です。普段皆さんが口にしている食事の大半は、食品衛生監視員がかかわっているといえるでしょう。
生活を支える身近な仕事ではありますが、仕事の詳細や年収などについてはあまり知られていないかもしれません。
今回は食品衛生監視員について、仕事内容や年収、必要な資格などをまとめて解説します。食品衛生監視員の仕事に興味がある人も、これまでまったく知らなかったという人も、ぜひ読んでみてください。
目次
食品衛生監視員とは?
食品衛生監視員は、海外から日本に輸入される食品の安全管理をおこない、日本の食卓の安全を守る仕事です。
日本全国の主要な港 ・空港の検疫所で、下記のような業務をおこないます。
● 輸入食品の安全監視や指導
● 感染症の国内への侵入防止
● 輸入食品などの微生物検査や理化学検査
● 食品を扱う業者への営業許可や衛生指導
食品衛生監視員と食品衛生監視者の違い
食品衛生監視員と食品衛生監視者はどちらも食品衛生にかかわる国家資格ですが、業務の対象と働く場所が異なります。
食品衛生監視員は、食品衛生法にもとづき輸入食品の監視、検査、検疫などをおこないます。国の自治体や検疫所で働くため、公務員資格が必要です。港や空港の検疫所で働く場合は国家公務員、保健所などで働く場合は地方公務員となります。
食品衛生監視者は、消費者へ安全な食品を提供するための衛生管理業務をおこないます。食肉製品や乳製品の加工・製造に関わる民間企業の施設で働くため、企業で働く会社員が取得する資格です。
国家公務員について詳しく知りたい方は、こちらの記事も読んでみてください。
国家公務員にはどのような仕事がある?地方公務員との違い
食品衛生監視員の仕事内容
食品衛生監視員の仕事は、国家公務員と地方公務員とで分野が異なります。
国家公務員としての食品衛生監視員
国家公務員としての食品衛生監視員の仕事は、厚生労働省の管轄にある全国の主要な港・空港の検疫所に所属して、第一線で輸入食品を監視して安全を確保することです。主に下記の3つの仕事をおこないます。
- 輸入食品監視業務
- 検査業務
- 検疫衛生業務
日本では食品衛生法が定められていますが、海外と全く内容が同じとは限りません。そのため、輸入食品が日本の食品衛生法に違反していないかを検査する必要があります。また、必要に応じて検査する人を指導することもあれば、自ら検査するなど体を動かすこともあります。
地方公務員としての食品衛生監視員
地方公務員としての食品衛生監視員は、国家公務員の場合より民間に寄った仕事が多いです。各自治体の保健所を起点として、食品を販売する業者と消費者の間に立って食の安全を守ります。
下記は東京都職員の仕事の一例ですが、細かな仕事内容は各自治体によって異なります。
- 飲食店等の営業施設の許可事務
- 営業施設に対する監視と指導
- 食中毒等の調査
- 食品の検査
- 食品に関する苦情や相談への対応など
食品衛生監視員の仕事のやりがい
食品衛生監視員は、下記のようなやりがいを感じられるような仕事です。
食品の知識が広がる
食品衛生監視員は、さまざまな食品を扱うため、食品の知識が広がります。特に国家公務員として海外からの輸入食品を検疫する場合、日本国内では見られない珍しい食品に出会えるという面白味があります。輸入食品に最初に触れる食品衛生監視員ならではのやりがいといえます。
幅広い業務に携われる
食品衛生監視員の職場は、国家公務員の場合は港や空港、地方公務員の場合は各自治体の保健所などですが、希望すれば異動することもできます。港と空港では輸入される食品にも違いがあり、検査内容など業務にも違いが出るため、幅広い業務を経験することにやりがいを感じられるでしょう。
学んだ知識を活かせる
詳しくは後述しますが、食品衛生監視員になるための条件のひとつに「医学、歯学、薬学、獣医学、畜産学、水産学又は農芸化学」を大学か専門学校で履修していること、があります。食品衛生監視員の仕事ではそれらの知識を存分に活かすことができるため、学業に打ち込んだ人ほど自分が学んだ知識が役立つことにやりがいを感じられます。
食を通じて国民の安全を守れる
食品衛生監視員の最大のやりがいであり魅力ともいえるのが、国民の食の安全に直接影響する仕事という点です。自分が食品の安全を最前線で守っているという責任感、またスーパーなどで自分が検疫した食品が並んでいるのを見たときの達成感などは、食品衛生監視員だからこそ得られるものといえるでしょう。
食品衛生監視員の仕事の流れ
食品衛生監視員は公務員なので、基本的には週休二日制、土日祝日は休みです。しかし勤務体系や勤務時間については、配属先によって大きく異なります。
仕事の流れも配属先によって異なるので、 検疫所で輸入食品の監視・検査・検疫をおこなう国家公務員と、保健所を起点に営業施設の監視・指導や消費者からの苦情を受け付ける仕事をする地方公務員、それぞれの1日のスケジュールをご紹介します。
検疫所(国家公務員)の1日の仕事の流れ
8:00 | 【出勤】 モニタリング検査の準備やメールのチェック モニタリング検査とは、書類検査を通過した食品から計画的に一部を抜き取り、違反がないかどうか調べる検査です。 |
8:30 | 【業務開始】 モニタリング検査の現場に移動 |
11:00 | 【モニタリング検査】 モニタリング検査では、体内に入れてはいけない医薬品や農薬が食品に残っていないかをチェックする |
12:00 | 【昼食休憩】 |
14:00 | 【事務作業】 モニタリング検査の書類を整理 |
16:00 | 【届出審査】 事前に届出のあった食品について、食品の製造方法や保存方法が食品衛生法の規格基準を満たしているかを審査 |
17:15 | 【退勤】 |
保健所(地方公務員)の1日の仕事の流れ
8:30 | 【出勤】 当日のスケジュールを確認し、検査の準備をする |
10:00 | 【収去検査】 収去とは、食品衛生法にもとづいて微生物や残留農薬、食品添加物などの検査のために、必要なものを無償で施設や店舗から採取すること 管轄エリアの施設を訪問し、製造・販売している食品について検査をおこなう |
12:00 | 【昼食休憩】 |
13:00 | 【検体搬送】 午前中に収去した検体を検査機関に搬送する 保健所内で検査可能なものや検査結果を担当部署に回す |
15:00 | 【電話・窓口対応】 営業施設や消費者からの問い合わせ対応 飲食店の営業許可申請や、食品の安全に関する相談など |
16:00 | 【事務作業】 検査した施設の記録などを作成 |
17:15 | 【退勤】 日報の作成、翌日のスケジュールを確認した後に退勤 |
食品衛生監視員の年収
食品衛生監視員の平均年収は700万円を超えるといわれています。新卒の初任給は17〜20万円とされていますが、年功序列で長く勤務するほど月収が上がりやすいこと、ボーナスや諸手当が手厚いことで、平均年収が上がりやすくなっているようです。
食品衛生監視員に必要な資質と能力
食品衛生監視員に必要な資質と能力は、下記の通りです。
食への関心が高い
食品衛生監視員は食品を扱う仕事のため、食への関心が高いことは必要な資質といえるでしょう。食品衛生に関する知識や最新の食品事情、検査技術についても積極的に学ぶ必要があるため、食に関心がある人は興味を持って勉強しやすいです。
責任感が強い
食品衛生監視員の仕事は、国民の食の安全を守るという責任のもとおこなわれます。食品の検査や関連書類のチェックなど、少しでもミスがあると大きな問題に発展する可能性もあります。どんなこまやかな作業も責任を持っておこなえる責任感の強い人は、食品衛生監視員に向いているといえるでしょう。
コミュニケーション能力が高い
食品衛生監視員の仕事は、さまざまな輸入業者や食品関係の事業者、消費者とも関わるため、柔軟なコミュニケーション能力も求められる仕事です。業者に対しては専門用語をつかっても大丈夫ですが、消費者相手にはわかりやすい表現で伝える必要もあります。
検査や分析が好き
食品衛生監視員の仕事には、細かな検査や分析も含まれます。地道な作業でありながら精密さも求められるので、検査や分析が好きでとことんこだわれる、という人は食品衛生監視員に向いているといえるでしょう。
食品衛生監視員になるための方法とは?
高校生のみなさんが食品衛生監視員になるための手順は下記のとおりです。
1.大学・専門学校で医学、歯学、薬学、獣医学、畜産学、水産学、農芸化学のいずれかを学ぶ
2.食品衛生監視員資格(任用資格)を取得する
3.食品衛生監視員採用試験または各自治体の職員採用試験に合格する
食品衛生監視員の世界の現状
輸入食品には感染症のリスクや、日本では扱っていない添加物が含まれているリスクもあるため、食品衛生監視員による検疫は重要度が高いといえます。厚生労働省のデータによると、日本の食料は6割が輸入食品とされており、輸入食品の割合は年々増加傾向にあります。人が生きていくために欠かせない食品の安全を守る食品衛生監視員の仕事は、今後も必要とされ続けるでしょう。
食品衛生監視員になるための勉強ができる大学・学部
食品衛生監視員になるためには、特定の学問を学んで大学を卒業していることが条件のひとつです。対象の学問を学べる大学の一部をまとめました。
<医学>
● 国際医療福祉大学 医学部(医学科)
● 北里大学 医学部(医学科)
<歯学>
● 日本歯科大学 生命歯学部(生命歯学科)新潟生命歯学部(生命歯学科)
● 奥羽大学 歯学部(歯学科)
<薬学>
● 横浜薬科大学 薬学部(健康薬学科/漢方薬学科/臨床薬学科)
● 長崎国際大学 薬学部(薬学科)
<獣医学>
● 麻布大学 獣医学部(獣医学科)
● 酪農学園大学 獣医学群(獣医学類)
<畜産学>
● 帯広畜産大学 畜産学部(畜産科学課程)
● 宮崎大学 農学部(畜産草地科学科)
<水産学>
● 鹿児島大学 水産学部(水産学科)
● 東海大学 海洋学部(水産学科)
<農芸化学>
● 東京農業大学 応用生物科学部(農芸化学科)
● 明治大学 農学部(農芸化学科)
● 高知大学 農林海洋科学部(農林資源科学科・農芸化学コース)
「農芸化学」は、動植物や微生物がもたらす健康効果や食品への影響について化学をつかって調べる学問です。農芸化学という名前の学部は上記の3大学のみですが、同じ内容を学べる大学には下記のような大学があります。
● 玉川大学 農学部(先端食農学科)
● 新潟食料農業大学 食料産業学部 食料産業学科(アグリコース/フードコース)
● 県立広島大学 生物資源科学部(生命環境学科)
● 別府大学 食物栄養科学部(発酵食品学科)
食品衛生監視員に必要な資格や受験すべき試験
食品衛生監視員になるためには、下記の2つの手順を踏む必要があります。
1.食品衛生監視員資格を取得する
「食品衛生監視員資格」は厚生労働省によって認可される任用資格と呼ばれるもので、特別な試験は必要ありません。満21歳以上30歳未満という年齢制限がありますが、必要書類を揃えて申請すれば取得できる資格です。
「食品衛生監視員資格」を取得するには、下記のいずれかの条件を満たしている必要があります。
- 都道府県知事の登録を受けた食品衛生監視員の養成施設において、所定の課程を修了した者
- 医師、歯科医師、薬剤師又は獣医師
- 大学又は専門学校において医学、歯学、薬学、獣医学、畜産学、水産学又は農芸化学の課程を修めて卒業した者
- 栄養士で2年以上食品衛生行政に関する事務に従事した経験を有するもの
【引用】食品衛生監視員になるためには – 東京都福祉保健局
URL:https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/shoukai/sikaku.html
2.食品衛生監視員採用試験または各自治体の職員採用試験に合格する
食品衛生監視員資格を取得した後は、勤務先に就職するための採用試験を受ける必要があります。食品衛生監視員として働くためには、国家公務員か地方公務員のどちらかの採用試験に合格しなければなりません。
国家公務員の場合は人事院がおこなう「食品衛生監視員採用試験」、地方公務員の場合は各自治体でおこなう「職員採用試験」です。
食品衛生監視員になるために目指すべき就職先
食品衛生監視員として働くためには、国家公務員として厚生労働省管轄の検疫所に就職するか、地方公務員として各自治体の運営する保健所に就職するか、どちらかを選ぶ必要があります。
食品衛生監視員になった後のキャリアプラン
食品衛生監視員として就職した後、国家公務員の場合は2〜3年おきに全国の検疫所に異動します。本省や地方厚生局などに異動する可能性もあり、専門的な知識を求められることもあります。
異動する中で食品衛生監視員の実務を一通りこなした後は、努力次第で検疫所の課長などに昇進できる可能性があります。
地方公務員のキャリアパスについては各自治体によって異なるため、一概にはいえません。しかし国家公務員に比べて異動は少ないようです。
食品衛生監視員を「JOB-BIKI」で検索しよう
食品衛生監視員は日本の食を守る使命感ややりがいを感じられる仕事で、今後も必要とされ続ける仕事です。
食品衛生監視員になるには、下記の3つの手順が必要です。
● 食品衛生監視員に必要な学問を学ぶ
● 食品衛生監視員資格を取得する
● 公務員試験に合格する
国家公務員になるか地方公務員になるかでキャリアパスも変わってくるので、進路を選ぶときは慎重に将来を考えて選ぶと良いでしょう。
「逆引き大学辞典」の大学検索で「医療・保健系統」「農学系統」に絞りこむと、食品衛生監視員の資格取得条件に該当する学部のある大学を探すことができます。また、「就職先検索」で厚生労働省に就職した人の出身大学を調べてみても良いでしょう。進路を選ぶときにぜひ活用してみてくださいね。