南極観測隊になるには?仕事内容や向いている人・目指せる大学について解説
2023.07.26
南極観測隊とは?
南極観測隊は、南極地域における気象や地質に生物など、あらゆるものの観測を行う調査隊です。
南極観測隊の仕事内容は多岐にわたり、雪氷を観測する人もいれば、海洋を観測する人もいます。
調べて研究を行う調査隊なので、南極観測隊に参加する人たちは実に様々です。
主に研究を仕事としている人が参加しますが、大学院生や会社員が参加することもあります。
南極観測隊の歴史は古く、1912年の南極探検隊をルーツとします。本格的な南極観測が始まったのは1957年のことで、現在までに65年以上も南極観測が続けられています。日本は戦後、早くから南極観測に積極的な意思表明をしていましたが、敗戦国ということで他国の反発がありました。
しかし1912年の白瀬隊の実績が認められ、日本も南極観測ができるようになりました。
日本の南極観測隊の基地といえば、昭和基地が有名です。
初期の昭和基地は厳しい生活でしたが、現在は日本国内と変わらない生活が送れるまでになっています。
床暖房で室温が維持されていますが、居住スペースについては限られます。1人あたりが自由に使える部屋のスペースは、約4畳といわれています。またお風呂やトイレは共用で、電話は基地内の公衆電話を使うことができます。
一歩外に出れば厳しい環境での生活ですから、制限があるのは仕方がないことです。
共同生活において役割分担も重要で、隊員はみなそれぞれ調理や清掃を行うなど、環境の維持に努めています。
南極での生活は制限が多くて決して自由とはいえませんが、隊員の中には複数回調査隊に参加する人も珍しくありません。それほどまでに人を惹きつける何かがあり、魅力的な仕事なのだと思われます。
南極の環境は、ただ気温が低いという以外についても特殊です。
例えば南極には風邪の病原体が存在しないので、隊員が風邪を引くことはありません。
南極にあらゆる病原体も持ち込むことが許されないので、南極観測隊に参加する隊員は、日本を発つ前に完治することが求められます。
南極観測隊の隊員には個性的な風貌の人が多い傾向ですが、これは防寒を目的に髭を剃らなかったり、髪の毛を切らない人が少なくないのが理由です。
南極観測隊には、1年にわたり観測を続ける南極越冬隊が存在します。
隊員は必ずしも越冬するわけではなく、越冬しない夏隊に対して、越冬する隊員は越冬隊と呼ばれます。
誰もが隊員になれるほどやさしくありませんが、隊員の候補生は菅平高原などで訓練をしてから本番に臨むことになります。
南極観測隊の仕事の流れ
南極観測隊の仕事の内容は人それぞれですが、一日の仕事の流れはだいたい決まっています。
午前8時には活動が始められるように起床して、南極での一日が始まります。
食事を作る担当の隊員は、調理をして食事の用意をするのが一日の仕事の始まりです。
食事の担当以外の仕事は、基地での生活に欠かせない発電機の管理や、車両の維持と整備などがあります。
他にも、基地内の設備や環境維持が仕事となります。
朝食を摂ってから隊員の仕事が本格化しますが、分野ごとにそれぞれの業務があります。
昼食を摂り、午後に行う仕事も観測部門と設営部門で異なります。
南極観測隊といっても、全ての隊員が観測や研究を行っているわけではありません。
調理担当や医師、ライフラインの担当など、食事や健康管理、環境維持を主な仕事としている設営部門の隊員も多いです。
これらの隊員は、担当する役割に応じた仕事をしています。
調理担当は食材の管理や料理のメニュー、医師は隊員の健康チェックや指導などです。
環境維持をする隊員は、電気や水道のチェックをしたり、必要に応じたメンテナンスをしたりするのが主な仕事です。
南極観測隊が使うトラックや雪上車など、車両整備の担当者もまた、一日の仕事の流れは他の隊員とは違います。
観測を行う隊員の一日の仕事の流れも、一様に同じではないです。
気象などの観測の仕事は、定期的に機械の数値を確認して記録に残し、まとめる業務が中心となります。
大半の業務は午後には終わりますが、オーロラ観測の仕事は夜中まで続くことがあります。
一日のスケジュールは季節によって異なりますが、基本的に仕事は夕方まで。
担当の業務以外にも、当直という当番制の仕事が存在します。
当直の仕事はお風呂やトイレの清掃が主で、隊員が協力して維持に努めています。
当然ですが南極観測隊にもお休みがありますよ。
土曜日は季節により休みだったり休みでなかったりしますが、日曜日は原則お休みです。
休日の過ごし方はそれぞれですが、天気の良い日に基地周辺を散策する人もいます。
南極観測隊は、一日中調査や研究を行っているわけではなく、仕事以外の時間も多いです。
季節ごとのイベントやスポーツがあり、これらを担当する隊員は準備も一日のスケジュールに組み込まれます。
基地にはバーや喫茶、理髪室などもありますから、担当の隊員は準備や業務に従事することになります。
何が起こるかわからない南極では、急に基地に吹雪が吹き付けることがあります。そんなときは手の空いている隊員が総出で雪かきをしますが、誰がいつ出動となるかはタイミング次第です。
南極観測隊の年収とやりがい
南極観測隊の年収は、職種によっても異なりますが、初任給は20万円となっています。
年収にすると平均が500万円前後で、上は600万円くらいが目安です。
南極観測隊は観測と設営で部門が分かれますが、いずれも専門的な知識、資格が求められます。
観測部門は気象庁や海上保安庁、国土地理院などから参加する人たちが中心です。
一方、設営部門は電気技術者や車両整備技術者、通信士や調理師に医師など、こちらも専門的な職種の人たちが主です。
南極観測隊は、決して高額な年収が望める仕事ではありませんが、お金では買えない貴重な経験ができます。
ちなみに、南極観測隊に参加する隊員には少額ながら手当が付きます。
手当は極地観測などに付くもので、越冬期間は更に3割増しになります。
南極観測隊にも勤務時間はありますが、残念ながら残業手当は付きません。
夜勤手当もないので、オーロラ観測の仕事も手当なしの給与が支払われることになります。
南極観測隊は、お金を目的に参加する仕事ではなく、やりがいを見つけて取り組むことに魅力が感じられる仕事だといえます。
初めて南極観測隊に参加する人にも役割があるので、求められる役割をこなすことが次第にやりがいに変わります。
隊員はみな必要とされ参加する人たちばかりなので、基地で必要とされることにやりがいがあるのです。
設営を担当する人たちは技術者が多いですから、1人でも欠けると基地を維持する難易度が上がります。勿論、各技術者が1人というわけではありませんが、隊員の数が限られていて一人ひとりの重要性が高いのは確かです。
雪で急に設備が不調になったり、インフラに問題が生じて駆り出されたりすることがあるのが南極です。突然機械が壊れて使えなくなることもありますから、技術者はいつ呼び出されるかわかりません。
南極観測隊におけるやりがいは、自分が担当する仕事をこなすだけでなく、急なトラブルの解決にもあります。
トラブルが楽しめるようになってからが、やりがいを感じながら従事する南極観測隊の本番です。
休日やイベントもある南極観測隊では、仕事以外の活動やイベントの準備もやりがいになります。
一定期間、共に生活をして南極で過ごす隊員の間には、役割を超えた絆が芽生えます。
絆が強まる仲間から頼りにされること自体もやりがいとして、南極で活動するモチベーションになるでしょう。
また南極観測隊を終えた後に、その経験を買われて頼りにされることにもやりがいを感じるでしょう。
南極観測隊に必要な資質と能力
南極観測隊に必要なのは、専門分野で活躍できるだけの資質や能力が基本です。
また、公務員試験に合格できる学力も求められます。
専門知識や経験が問われますが、前提として南極で活動できる体力が不可欠です。
体力に自信がなければ、南極の環境で過ごすのは非常に難しいでしょう。
健康面も重要なポイントで、風邪の病原菌が存在しない環境ですが、寒さで容易に体調を崩さない免疫力は必要です。
このように、南極観測隊は特定の専門分野に明るく、一定以上の学力があって、体力と健康に問題がないことが隊員になるための資質・能力だといえます。
南極は極寒で風が非常に強く、非日常的な世界が広がっている場所です。
日本で当たり前のことが南極では当たり前ではなく、安定した生活の維持には隊員の協力が欠かせません。
隊員としての自覚を持つことに加えて、チームの一員として能力を最大限に発揮する責任が重要です。
誇りを持って南極観測隊に従事すること、責任ある判断や行動を取れることもまた、必要な資質や能力となります。
南極観測隊は、隊長を筆頭に隊員がチームで活動します。
隊長には隊員をまとめる資質、隊員には隊長の命令に従い活動する能力が問われます。
南極での生活は、人員や物資を含めて余裕があるとはいえません。
電気を使うことはできますが、資源は有限で無駄に使える余裕はないので、節電意識と具体的な行動が必要になります。
こうした基地の生活、環境を維持するための意識と行動も、南極観測隊の隊員になくてはならない資質・能力です。
急な強風による除雪作業が必要になる南極では、率先して作業にあたる人員が重宝されます。
南極観測隊は自分で考え、行動できる人こそが隊員に相応しいです。隊長の命令は絶対ですが、指示を待つだけで指示がないと動けないのは間違いです。ときに自分で考えて行動に移せる柔軟な思考も、南極観測隊に必要不可欠だといえるでしょう。
燃料やガスの補給も自分たちでやらなければいけない環境において、指示待ち人間は十分に能力を発揮することができません。自分の役割を自覚して、率先してやることを見つけて作業に着手できる人が、南極観測隊隊員の理想です。とはいえ、自分勝手な判断でチームを乱したり、他の隊員に迷惑をかけるのは違います。
チーム全体を見ながら、自分ができることをしてチームに貢献するのが、南極観測隊に必要となる能力です。
生まれ持った体格や丈夫な体など、自分ではどうすることもできない資質も存在しますが、体を鍛えて自分を磨くことで、南極観測隊に相応しい人物像に近づけます。
南極観測隊になるための方法とは?
南極観測隊になる方法は、観測部門と設営部門で違ってきます。
観測部門は気象庁や大学などの研究者が多く、政府機関の研究員もいます。
つまりこれらの研究機関に就職して、研究職で実績を積むことが、南極観測隊になる道筋となります。
高校から南極観測隊を目指す場合は、大学の理学部・学科に進むのが近道です。
南極観測に関わる大気や海洋、地質や生物、雪氷などの分野を学ぶと良いでしょう。
大学で経験を積み重ね、大学院修士課程を経て博士課程へと進みます。南極観測隊の観測部門の隊員はみな、博士号を取得している人たちばかりなので、博士号の取得が必須レベルです。
南極観測隊を目指せる就職先の1つに、国立極地研究所があります。
国立極地研究所は、南極観測の重要な役割を担っている大学共同利用機関です。
南極観測隊には、この国立極地研究所から参加する人が少なくありません。
国立極地研究所では研究員になるか、職員として働き南極観測隊の参加を目指すことになります。
参加資格は部門によって異なりますが、いずれも厳しい要件なのは確かです。
設営部門は機械・通信・調理、医療・環境保全などに分かれており、これらも専門資格や技術、知識を持つ専門職の人材が求められます。
他にもアンテナ技術者や建築・土木技術者、安全管理担当などが存在します。
南極観測隊は、一般公募による募集が行われることもあるので、応募して試験に合格して参加する道も選べます。
国家公務員試験を受けて国立極地研究所や気象庁、海上保安庁に就職する道と、民間企業に就職して派遣される方法があります。
調理師や医師などの設営部門は、一般公募で隊員を募ることが多いです。
公務員にならなければなれない分野もあるので、活躍したい分野から逆算して、南極観測隊への道筋を描くことが大切です。
南極で観測や研究に取り組みたいのであれば、国家公務員からのルートが現実的な選択になるでしょう。
隊員は健康でなければなれないので、候補者に選ばれても身体検査に合格するまでは油断禁物。
応募要件を満たし、試験の合格を目指すことも大切ですが、南極での生活を想定した体力づくりも重要です。
日頃から体を動かし汗を流し、体力と筋力を維持することが南極観測隊参加の可能性に繋がります。
隊員に必要な自覚について考えたり、日常の中で心構えを実践したりして身につけるのも、参加に近づく方法だと考えられます。