大学院の博士号とは?修士号との違いや取得のメリットを解説
2023.08.04
大学院の博士号とは、大学院の博士課程で単位を取得し、博士論文の審査に合格した場合に得られる最高学歴です。博士号を取得するには、10年近く大学にいることになりますが、そこまでして取得した博士号は、どのような職業に就くときに役立つのでしょうか?
この記事では、博士号と学士号・修士号の違いや、博士号を取得する方法のほか、博士号取得のメリット・デメリット、取得者の就職先などについてご紹介します。
目次
大学院の博士号とは博士課程を修めると得られる最高学歴
大学院の博士号(はくしごう)とは、大学院の博士課程で単位を取得し、博士論文の審査に合格した場合に得られる最高学歴です。学内外の研究者から、ある専門分野において「プロの研究者」として認められた存在なのです。一般的には「Doctor(ドクター)」と呼ばれます。
博士課程は最高学歴だけあって、極めて狭き門です。文部科学省が2022年12月に公表した「令和4年度学校基本調査」によると、全国の大学の学生のうち、大学院博士課程に籍を置く学生は、わずか約2.6%!
なお、大学院の博士課程は、2年間の「博士前期課程」と3年間の「博士後期課程」に分けている区分制と、5年間通う一貫制の2種類がありますので、混同しないように注意しましょう。
大学院進学率の高い大学は、長岡技術科学大学、名古屋工業大学、豊橋技術科学大学、東京農工大学、京都工芸繊維大学、電気通信大学、東京工業大学、豊田工業大学、東京理科大学、九州工業大学、名古屋大学、京都大学、東北大学、北海道大学、芝浦工業大学などです。
参考:大学通信ONLINE 2023年 大学就職実績大学院進学率(全国)
博士号と学士号の違い
大学の学部で単位を取得して卒業した学生は、「学士号」を取得できます。大学院に所属する「院生」に対して、「学部生」と呼ばれることもあります。
高校に比べれば専門的な内容を学ぶのが大学の学部ですが、かつては「教養学士」「教養士」といわれていました。つまり、学問の世界で学士号は、一般教養・専門教養の基礎を身に付けたレベルといえるでしょう。
博士号と修士号の違い
大学の学部を卒業して進学する大学院には、「修士号」を得られる課程があります。修士号は、大学院修士課程(あるいは博士課程前期)で修士論文を提出し、研究実績を認められて課程を修めた人が得られる学位です。
修士号取得者は一般的には「Master(マスター)」と呼ばれ、学士号<修士号<博士号の順に専門性が高くなります。修士課程では、大学院入試に合格した人のみが進学し、指導教員から研究テーマをあてがわれて指導を受けながら研究を進め、特定分野の専門知識やスキルを習得します。
一方で博士課程は、修士号を得た人が進学する、さらに自律した研究者の道です。知識やスキルを得るだけでなく、特定分野の研究に貢献し、新しい知見(論文)を世に送り出すことが求められます。だからこそ学外の研究者からも厳しいチェックを受けている博士号は、「プロの研究者」として評価されるのです。
大学院の博士号を取得する方法
博士号を取得するには、どのような方法があるのでしょうか。ここでは、「課程博士」と「論文博士」の2種類の博士号の取得方法について解説します。
課程博士
課程博士は、大学に通いながら研究を進める一般的な博士号の取得方法です。
大学の学部で4年学んだのち、修士課程(あるいは博士前期課程)を2年修め、博士後期課程3年で博士論文を提出し研究実績を認められた(あるいは博士課程5年を修めた)大学院生が学位を得られます。
ちなみに、医歯薬学部や獣医学部などは6年制の学部です。学部で6年、博士課程で4年となります。
課程博士は大学院の研究室に在籍しているため、いつでも教員から指導を得られるのがメリットですが、大学院の授業料を負担しなければならず、研究が忙しいので収入が得られないことに注意が必要です。
論文博士
論文博士は「ろんぱく」とも呼ばれ、大学院の課程に籍を置かず、学位授与機関である大学に論文を提出し、審査に合格することで得られる学位です。修士課程を終えて企業の研究開発部門などに就職し、研究を進めながら、その業績をもとに論文をまとめるのです。働きつつ論文を書くので時間はかかりますが、収入を得ながら研究できるのがメリットです。
この論文博士の制度は、欧米にはない日本独自のものです。
博士号取得のメリット
大学院の博士号を取得すると、何かに有利になったり優遇されたりすることはあるのでしょうか。ここでは、大学院の博士号取得のメリットについて解説します。
高い専門性を証明できる
博士号を取得すると、自分の専門知識やスキルを証明されていることによって、「特定分野の専門家」としてのポジションを確立することができます。この専門性の証明は、大学教員のポストや、企業所属の研究者といった仕事を得るために重要な要素となるでしょう。
また、博士号(Ph.D.)は国際的にも認められている称号のため、海外の研究機関や企業でも活躍することができるのです。
就職先で専門家として優遇され、研究にも専念できる
博士号取得のために取り組んできた研究内容によっては、一般企業や研究機関から注目を集めることもあります。そのような状況で就職すれば、即戦力の研究者として優遇されるでしょう。場合によっては、一般のビジネスパーソンより高い報酬を得られるかもしれませんね!
企業などの研究開発職は、基本的に組織の方針に沿って研究を進めていくことになりますが、物事を究めたいタイプの博士号取得者であれば、高いモチベーションで研究に臨むことができるでしょう。また、自分が関わった研究で、世の役に立つ製品などが生まれたときの達成感もひとしおです。
大学教員への道が拓ける
博士号を取得すれば国内外の大学教員のポストに就くチャンスが生まれます。大学教員になれば、社会的な地位と収入が保証される上、研究テーマによってはメディアの取材やコメンテーターとして出演依頼を受けることも考えられます。
大学教員は、研究と学生への教育を行うのが主な仕事です。研究では、自分が専門とするテーマを研究し続け、その成果を論文にまとめ、学会などで定期的に発表します。その内容が学会の中で評価されれば、研究者としてのステージを上がっていくことになるのです。
また、学生への教育についても、ゼミや研究室で論文指導などを行っていくので、結果的には自分の研究に続く後進を育てていくことにつながります。
博士号を取得するにあたっての注意点
大学院の博士号を取得することでその道の専門家として扱われますが、良いことばかりとも限りません。ここでは、大学院の博士号取得にあたっての注意点を解説します。
取得までの経済的な負担が大きい
課程博士の場合、修士課程も含めて、大学院に5~6年通うことになります。国公立大学の場合、入学金が28万2,000円、修士課程の授業料は53万5,800円、博士課程の授業料は年間で52万800円です。 学部に比べれば安価ですが、それでも博士号取得までに約300万円もかかります。
私立大学の博士課程の場合は、国公立大学より高額になることもあります。例えば、早稲田大学の一貫制博士課程では、初年度は約99万円(入学金含む)、2年目以降は約90万円です。つまり、博士号取得までに、約460万円かかる計算です。
親に援助してもらったり、アルバイトしながら学費を稼いだりする方法もありますが、大学卒業後にいったん就職し、博士課程進学のための資金を貯めるのもひとつの手です。
研究分野によっては教員のポストが少ない
大学教員として働くために 博士号を取得しようとしているなら、少々ご注意ください。博士号を取っても、すべての取得者が大学教員になれるという保証はありません。また、後述するように、ポストドクターから講師、准教授、教授への道はかなり狭き門です。さらに、ニッチで珍しい研究分野の場合、学びたいという学生が少ないため、学部・学科を置く大学も少ないのです。すると、必然的にそのような研究者を教員として雇う大学も少なくなります。
「自分がやりたい研究」がすでに定まっているのであれば、その分野について教員になる道や世間のニーズがあるのかどうかは確かめておいたほうがいいでしょう。
就職先が狭まる
博士号取得者は、専門家になるために学んできた以上、その専門知識やスキルを活かして仕事をしたいと考えるでしょう。そうなると、どうしても就職先となる企業や研究機関は限られます。また、順調に博士号を取得しても、年齢としては27歳。さらに、社会人としての経験がないため、採用を敬遠する企業もあることは事実です。
また、理系の博士号取得者に比べ、文系の博士号取得者は就職率が低いという調査結果 があります。
博士号取得者の進路
博士号を取得した人は、その後、どのような道へ進むことが多いのでしょうか?ここでは、博士号取得者の主な進路について解説します。
大学教員
文部科学省の調査によると、博士号取得者のうち、約16%が大学教員になっています。大学教員というと「教授」を思い浮かべる人が多いと思いますが、教授は研究と教育を担い、教育では科目と学生指導を行う最高位のポストです。教授になると、大学や学部の経営に携わることもあります。
教授になるまでには、ポストドクター(博士研究員)や助教から、講師→准教授→教授といったカタチでステップアップしていくのが一般的です。
「大学教授になりたい」という人は、下記のコラムをぜひ読んでみてください。
大学教授になる方法は?仕事内容や求められる人の特徴
医療従事者
博士号を取得して、医師や歯科医師、薬剤師、保健師などの職業に就く人は、全体の約18%です。医歯薬系は6年制の学部が多く、そのまま博士課程へと進みます。
「医療従事者になりたい」という人は、下記のコラムをぜひ読んでみてください。
医療系の仕事にはどのような種類がある?人を助ける職業一覧
企業・公的機関の研究開発職
文部科学省の調査では、博士号取得者全体のうち、約34%が企業や公的機関に就職しています。企業に就職した人の半数近くはメーカーなどの製造業で、研究開発職として働いているようです。
「研究者になりたい」という人は、下記のコラムをぜひ読んでみてください。
研究者になるには?仕事内容や就職先・求められる能力について解説
ポストドクター(博士研究員)
ポストドクター(博士研究員)は、博士課程を修了した人が就く研究職です。大学や研究機関の任期付き研究員になることが多く、研究だけでなく教育に携わるケースもあります。
自分の目的をよく考えた上で 博士号取得を目指そう
大学院の博士号取得のためには、大学卒業後、大学院博士課程に進学し、研究にいそしむ必要があります。地道な研究や論文執筆には苦労もありますが、目的を持っているのであればがんばれるはず。企業の研究開発職など、博士号を持っている人を優遇する職業もあります。
文部科学省が2022年1月に公表した「『博士人材追跡調査』第4次報告書」では、博士課程在籍によって獲得した、現在の仕事で役立っているチカラとして、「論理性や批判的思考力」「データ処理・活用能力」「みずから課題を発見し設定する力」を多くの人が挙げています。
突き詰めて考えるタイプで、自分がどうしてもやりたいことがあるのであれば、博士号取得を目指すのがオススメです。なりたい職業に向けた大学選びなら、ぜひ「JOB-BIKI」を活用してみてくださいね。