財務専門官になるには?求められる資質・能力などを紹介
2022.08.02
高校生の皆さんは、「財務専門官」という仕事の存在をご存じですか?国家公務員である財務専門官は、国の予算がどのように使われているのかをチェックするとても大切な仕事です。
今回は、財務専門官になるための方法や仕事内容、求められる能力などを紹介します。財務専門官になるための勉強ができる大学・学部についても解説していますので、参考にしてみてくださいね。
目次
財務専門官とは?
財務専門官とは、国の予算がきちんと使われているかどうかをチェックする「予算執行調査」を行ったり、地域の銀行・信用金庫や貸金業者などへの検査・監督を行ったりする財政・金融のプロです。
全国各地にある財務局・財務支局にて、東京・霞が関の財務省や金融庁から任せられた仕事を行うのが財務専門官。地域と国をつなぐパイプ役として、地域に貢献する役割を果たしているのです。
公務員には、中央官庁およびその出先機関に勤める「国家公務員」と、県庁や市役所・役場などで働く「地方公務員」があります。財務専門官は財務省の出先機関である財務局・財務支局で働く国家公務員です。
各地域の財務局・財務支局の財務専門官は、東京の財務省本省からの情報を地域に提供し、代わりに各地域から収集した声を財務省に伝える…こうイメージするとわかりやすいのではないでしょうか?
財務専門官と国税専門官との違い
財務専門官といっしょにして間違えそうな仕事に、国税専門官があります。どちらも国家公務員ですが、管轄省庁や仕事内容に違いがありますので、注意してくださいね。
■財務専門官と国税専門官の仕事の違い
財務専門官 | 国税専門官 | |
身分 | 国家公務員 | 国家公務員 |
管轄省庁 | 財務省(財務局) | 国税庁や税務署 |
主な仕事内容 | 財政・金融のスペシャリストとして、国と地域をつなぐ | 税金のスペシャリストとして納税や税務申告に関する調査を行う |
財務専門官は国の「予算」について中心に仕事しています。一方、国税専門官はみんなが「税金」をきちんと納めているかをチェックするのが仕事です。
税務申告に不正があったときには、財産の差し押さえなどの強制捜査を行ったり、刑事告発に踏み切ったりすることも。
財務専門官の仕事内容
財務専門官の仕事内容は、大きく5つの分野に分けられます。それぞれどのような仕事をしているのか、詳しく解説しましょう。
・財政
財政に関する仕事は、国の予算がきちんと執行されているかを検査・監督するのが目的です。国から地方公共団体に資金を融資するかどうかを判断したり、台風や地震などの災害によって地方の道路や橋などがダメージを負った場合、ほかの中央官庁といっしょに財政のプロとして復旧事業に立ち会い、復旧方法と事業規模をスピード決定したりすることもあります。まさに、「国と地方をつなぐ」仕事です!
・国有財産
国有財産に関する仕事は、国が持っている土地などの財産が、地域で有効に活用されているかなどを管理します。分かれている行政施設を空きスペースのある庁舎に集約して空いた土地を売ったり、借りる物件を減らしたりして、財産の合理化に貢献します。東日本大震災などの非常時では未利用の国有地を地方自治体に無償で貸し、仮設住宅を建てるときの支援を行ったことも。
・金融
財務専門官の重要な仕事のひとつに、地域銀行や信用金庫、証券会社・保険会社などに立入検査し、経営状況やリスク対応をチェックする仕事があります。これは預金者や契約者、投資家を守るためです。また、金融商品の投資詐欺やインサイダー取引などを監視し、必要に応じて指導するのも財務専門官の重要な使命です。
・経済調査
財務専門官は、地域の経済情勢について調査し、調査結果を国に報告しています。地域の意見や要望を中央省庁に伝えるのも大切な役割のひとつなんですよ。
・広報相談
財務専門官は、財務省や金融庁の施策を地域へ広報する仕事も行っているなんて、意外じゃありませんか?
彼らは必要に応じて、地域の会合や学校・研修会などで講師を務めることも。また、複数の消費者金融業者などからたくさんお金を借りて返すことが難しくなってしまった人の相談にのり、債務整理の方法を提案したり、法律の専門家を紹介したりする活動を通じて、地域住民の暮らしをサポートすることもあるのだとか。
これらの活動は、経済・財政・金融や税金について、皆さんに少しでも理解を深めてもらうために行われています。
財務専門官の仕事のやりがい
財務専門官は、財政・金融のプロとして国と地域をつなぐ、社会の役に立つ仕事です。街づくりや地域の活性化のために貢献したり、地域で台風・地震などの災害が発生したときには、復旧に必要な費用の額を決めたり、そのための資金を融資したりと、財務専門官の仕事によって財政面で地域を盛り上げることもできるのです。
また、財務専門官は、地方自治体や企業から頼りにされることも少なくありません。地域の発展に貢献しているときっと実感できるでしょう。自分のふるさとを始めとした地域に貢献したいと考えている人にとって、とてもやりがいのある仕事だと思いませんか?
財務専門官の仕事の流れ
財務専門官の仕事は非常に幅広いもの。ここでは、地域活性化においてポイントとなる地域金融機関の検査・監督業務に絞って、一般的な仕事の流れを見ていきましょう。
1.委任
地方銀行・信用金庫などの地域金融機関は、地域の中小企業との信頼関係を大切にして、融資やアドバイスなどで彼らの経営を支える「リレーションシップバンキング」を担う重要な存在です。
それゆえに、地域金融機関の中で過剰なワンマン経営が行われていたり、特定の会社にやたらとお金を貸していたりする経営管理(ガバナンス)の問題が起きていないか、反社会的組織の犯罪に利用されるような体制になっていないかなどを、外部からチェックしなければなりません。
「銀行法」という法律の第一条に、「(銀行の)信用を維持し、預金者等の保護を確保するとともに金融の円滑を図るため」とあります。これに則って、財務専門官は金融庁や証券取引等監視委員会、公認会計士などの各方面から、地域金融機関へ検査・監督実施を委任されます。
2. 検査・監督
委任を受けた財務専門官は、日頃から地域金融機関のトップをはじめ、さまざまな人とコミュニケーションを取って情報収集します。報告資料やアンケート提出(オフサイトモニタリング)をお願いすることもあります。地域金融機関の経営方針や経営状況をしっかりと把握・分析した上で、経営体制にどんなリスクや課題があり、どのように対応しようとしているかなどをチェックするのです。
財務専門官が経営の健全性などについてもっと十分な検証が必要だと判断したときには、立入検査(オンサイトモニタリング)を行い、事情聴取や資料のチェック・持ち出しなどを行います。
3. 通知
検査結果をとりまとめ、地域金融機関へフィードバックします。財務専門官と地域金融機関のあいだで経営上の課題や根本原因・改善策について対話し、地域金融機関の自主的な経営判断を尊重しながら経営改善をサポートしていくのです。
こうして、財務専門官は公的な立場から地域金融機関の検査・監督を行うことによって、地域の中小企業や住民が安心して健全な取引・契約ができる環境を整えています。
財務専門官の年収
国家公務員の給与は、一般職の職員の給与に関する法律によって定められていて、「俸給」と呼ばれています。この法律で、財務専門官の給与には「行政職俸給表(一)」が適用されます。
「令和3年国家公務員給与等実態調査」(人事院)の結果によれば、平均給与月額は40万7,153円と公表されています。月額に加えて、民間企業の賞与(ボーナス)に相当する期末手当・勤勉手当が年間約4.3ヵ月分支給されることから、平均年収はおよそ660万円程度となります。
国と地域の架け橋となる財務専門官は、収入面では大きな不安はない分、地域から期待されていて大きな責任も伴う仕事であることを理解しておきたいですね。
財務専門官に必要な資質と能力
財務専門官には、どのような資質と能力が求められるのでしょう?ここでは、財務専門官に特に必要とされる資質と能力について解説します。
会計の知識
財務専門官が財政や金融のプロとして活躍していく上で、とにかくマストなのが会計の知識。検査や調査の対象となる銀行や保険会社はお金のエキスパートですから、その担当者と対等に話せるだけの知識がなければこの仕事は務まらないのです。
また、国の予算がきちんと執行されているか確認するときにも、お金の使われ方を確認するため、会計帳簿や決算書を読み解く力が必要となります。会計は、財務専門官として働いていくための基礎的な知識。お金の計算に強い人こそが就くべき仕事でしょう。
責任感
財務専門官は、国や地方の財政に関わる仕事です。委任された仕事を正確にやり遂げる責任感は必要不可欠!
また、検査・監督には地道な調査やヒアリングが求められるため、気を緩めることなく業務に集中する必要があります。高度な専門知識が求められるため、常に学び続け、新たな知識を吸収し続ける熱意も欠かせません。「国のため、地域のため」という責任感を強くもち、そのために学び続ける熱意を持つ人に向いている仕事といえるでしょう。
事務処理能力
財務専門官は、細かな事務作業が仕事の大半です。財務省や金融庁への報告文書の作成や、金融機関に提出する書類・資料の準備など、とにかく常に大量の事務作業があります。
財務専門官は、検査・監督や打ち合わせなどで現地に出向く必要もあるため、事務作業だけに専念しているわけにもいかないのがつらいところ。限られた労働時間の中で、スピーディーかつ正確に事務作業を進める処理能力が求められる仕事なのです。
調整力
財務専門官は、国と地域をつなぐ役割。これは別の見方をすると、国と地方のあいだで板挟みになる立場ともいえます。地方自治体は、「公共事業を充実してほしい」「災害対応にできるだけ多くのお金を出して」と希望するでしょう。一方で、国の予算には限りがあります。
そこで、財務専門官の出番です。財務専門官は国と地方自治体の双方に納得してもらえるよう、必要に応じて譲歩や新たな提案を示すなど、あらゆる手段で問題を解決します。そこで求められるのが調整力なのです。
コミュニケーション力
財務専門官の仕事は、一人では進められません。例えば、地方自治体の職員や金融機関の従業員、財務局の職員などとマメにコミュニケーションを取りながら、仕事を遂行していきます。
財務専門官は国と地域のお金に関する重要な役割を担うため、コミュニケーション不足による行き違いや誤解は禁物。間違いなく聞き取ったり伝えたりできるコミュニケーション力は、財務専門官として非常に重要な能力といえるはずです。
財務専門官になるための方法とは?
国家公務員である財務専門官になるためには、具体的にどのような進路を選べば良いのでしょう?財務専門官の世界の現状を踏まえつつ、必要な資格や受験すべき試験について理解を深めてくださいね。
財務専門官の世界の現状
財務専門官は国家公務員なので、安定した仕事といえます。年間の採用人数は140〜180人程度で推移しています。
財務専門官は、国と地域の両方にとって欠かせない存在です。もし災害が発生すれば、現場に駆けつけて、復旧のために必要な費用をチェックし、決定するのは財務専門官。もし、あなたの住んでいる地域が台風や地震で被害を受けたことがある地域なら、財務専門官の仕事の大切さは想像しやすいのでは?
こうした理由から、財務専門官は今後も安定したニーズがある、世の中にはなくてはならない仕事といえるでしょう。近年は地方創生や地域貢献など、地域の財政支援が望まれる機会も増えているため、財務専門官の活躍の場はますます広がっていくはず。
財務専門官になるための勉強ができる大学・学部
財務専門官になるには、財務専門官採用試験に合格する必要があります。この財務専門官採用試験は、必ずしも難関大学出身でなければ合格できない試験でなく、私立大学出身者も合格しています。とはいえ、相当な勉強量が必要になるでしょう。
財務専門官採用試験では基礎能力試験のほか、専門試験も実施されるので注意してください。専門試験では会計や統計、法律などに関する知識が求められるので、それに関連する学部に進学するほうが有利になるかもしれませんね。
一例として、下記のような学部・学科に進学すると、財務専門官の仕事と関わりの深い勉強ができますよ。
<財務専門官になるための勉強ができる学部・学科>
・会計学科
・経営会計学科
・会計情報学科
・商業学科
・経営学科
・経営情報学科
財務専門官に必要な資格や受験すべき試験
財務専門官になるために必要なのは、国家試験である財務専門官採用試験を受験し、合格すること。試験の点数が高い人から合格できるので、できるだけ高得点を獲得できるよう、しっかり勉強する必要があるでしょう。試験の出題内容は下記のとおりです。
■財務専門官採用試験の内容
財務専門官採用試験の受験資格には年齢制限があり、22〜30歳に限られます。募集要項によれば、「大学を卒業した者および大学を卒業する見込みの者」「短期大学または高等専門学校を卒業した者、卒業する見込みの者」、そして人事院がこれらの者と同等の資格があると認める人が受験資格を持っているので、財務専門官を目指すなら大学や短大・高専への進学を強くおすすめします。
試験科目 | 出題数 | 出題内容 | |
---|---|---|---|
一次試験 | 基礎能力試験 | 40題(選択式) | ・文章理解 ・判断推理 ・数的推理 ・資料解釈 ・自然・人文・社会 |
一次試験 | 専門試験 | 40題(選択式) | 【必須】下記2科目28題 ・憲法・行政法 ・経済学・財政学・経済事情 【選択】下記8科目48題から2科目12題 ・民法・商法 ・統計学 ・政治学・社会学 ・会計学 ・経営学 ・英語 ・情報数学 ・情報工学 |
一次試験 | 専門試験 | 1題(記述式) | 【選択】下記5科目から1科目 ・憲法 ・民法 ・経済学 ・財政学 ・会計学 |
二次試験 | 人物試験 | − | 個別面接 |
財務専門官になるために目指すべき就職先
財務専門官の勤務先は、全国各地にある財務局。財務専門官採用試験に合格すると、勤務希望地区の財務局に配属され、財務専門官としてのキャリアがスタートします。気をつけたいのは、各地区の財務局への採用は、試験の成績順で決定すること。合格点に達していても、得点が高くないと希望地区の財務局から内定が出ないかも。
財務専門官に採用される人材は学歴や性別は問われていませんが、結果的に試験に合格し、採用されるのは女性が多いようで、およそ3分の2は女性なんだとか。
財務専門官になった後のキャリアプラン
財務専門官のキャリアパスは非常にわかりやすく、勤務した年数に応じて昇進していく仕組みです。
財務専門官になったら、係員として各地区の財務局に配属され、2~3年間ごとに違う仕事に就き、仕事を覚えていきます。8〜9年程度はさまざまな業務を一通り経験するのが一般的です。この期間中に不動産鑑定に関する研修や国際財務に関する研修を受け、不動産鑑定士試験や公認会計士試験に合格する人も。また、海外の大学院に留学してさらにスキルアップを図る人もいます。
財務専門官としては、係長や課長へ昇進するごとに研修が実施され、知識や実務能力の専門性を高めていきます。下記は、役職ごとの研修内容の一例です。
■財務専門官の役職昇進時の研修内容
役職 | 研修種別 | 研修内容の例 |
---|---|---|
係長クラス | 中央研修 | ・経済調査事務研修 ・主計事務研修 ・融資事務研修 ・市場監視基礎研修 ・国有財産総合研修 |
係長クラス | 地方研修 | ・国有財産事務研修 ・初任検査官研修 ・証券取引研修 |
中堅係長〜係長クラス | 中央研修 | ・国際財務理論研修 ・不動産鑑定理論研修 ・高等理論研修 |
このような研修を経て、各地域の財務局のメイン財務専門官として活躍することになります。ただし、数年単位の異動や出向があるのも国家公務員の特徴。場合によっては財務省や金融庁へ出向し、中央省庁の仕事に携わることもあるでしょう。海外の関連機関に出向し、現地企業と日本をつなぐ役割を果たすなど、グローバルな舞台で仕事するようになることも。
財務専門官は、さまざまな仕事の経験が積めて、どこまでも成長していける仕事なのですね!
財務専門官への進路を「JOB-BIKI」で検索してみよう
財務専門官は国家公務員として、各地域の財務局で財政・金融の検査・監督を行うプロフェッショナルです。国と地域の財政をつなぐ重要な役割を担っているので、地域の自治体や企業から頼りにされるだけでなく、国としても大切な存在といえます。
財務専門官になるには国家試験に合格する必要がありますが、高校生のうちから、そして大学に進学してもしっかりと勉強すれば、財務専門官になれるチャンスは大いにあります。財政・金融のプロとして、国や地域の役に立ちたいと考えている人にこそおすすめの仕事といえるはず。
そんな高校生の皆さんは、この記事と「JOB-BIKI」の検索結果を参考にして、ぜひ財務専門官を目指すための進路を検討してみてくださいね。決して簡単ではありませんが、財務専門官への道はきっと開けていくことでしょう!