繊維業界に就職するには?職種や仕事内容、目指せる大学を紹介
2024.04.18
繊維業界は、私たちの衣料品などの元となる糸や布などの製造・販売を担う業界です。私たちの身の回りには、すでに繊維が加工された衣料品などの状態になっているため、繊維というものを特別意識する場面は少ないかもしれません。しかし、繊維は衣料品などの質感や手触りを左右する重要な素材です。そのため、衣料品の見た目よりも温かさや着心地を重視する人は、アパレルメーカーよりも繊維メーカーの方が向いているでしょう。
今回は、繊維業界が「具体的にどのような仕事を行っているのか?」について解説します。職種や目指せる大学についても紹介しますので、ぜひこの記事を読んで詳しく知ってください。
目次
繊維業界の魅力や代表的な企業の例
繊維業界には、どんな特徴があるのでしょうか。ここでは、繊維業界の基礎知識や働く魅力、代表的な企業の例をご紹介します。
繊維業界とは?
繊維は、私たちが普段着ている洋服にも使われている素材です。繊維業界では、その繊維を使って糸や布を作ったり、繊維を染色したりするなどの仕事を担っています。また、洋服以外にも繊維が使われている場面は多いです。例えば、自動車の天井材やドアの一部に使われている不織布。不織布も、繊維を織らずに絡み合わせてできています。繊維メーカーは、こうした不織布のような布・糸などの素材を製造し、アパレルメーカーや自動車部品を製造する企業へ販売することが仕事です。繊維業界で扱う繊維には、おもに天然繊維と化学繊維の2種類があります。繊維業界への理解を深めるためにも、まずは繊維の基礎知識として、天然繊維と化学繊維の違いについて見ていきましょう。
天然繊維
天然繊維は、主な原料が自然由来のものである繊維です。より細かく分類すると、植物繊維と動物繊維に分けられます。植物繊維は、文字通り植物を由来とする繊維です。例えば、私たちの洋服にも多く使われている綿が挙げられます。綿は、アオイ科ワタ属の多年草である「ワタ」という植物の種子からとれる繊維です。また、動物繊維は、動物の毛などを原料としています。例えば、温かいコートなどに使われるウール。ウールは羊の毛を原料としているため、動物繊維に該当します。
化学繊維
化学繊維は、化学的な技術を使って生み出した繊維です。より細かく分類すると、合成繊維と再生繊維の2種類に分けられます。合成繊維とは、例えばポリエステルやナイロンといったものです。これらは石油や石炭などを原料とし、化学的な処理を行って生み出されています。また、再生繊維は、例えばレーヨンやポリエステル繊維といったものです。再生繊維は、元々ある物質を化学反応や熱によって一度溶かし、再び繊維として再生させたものを指します。レーヨンであれば木材パルプを原料としているため、木材パルプに化学的な処理を行って作っているというわけです。ポリエステル繊維は、ペットボトルを原料として再利用しています。
繊維業界で働く魅力
繊維は、私たちが普段身につけている衣料品などを作るのに欠かせないものです。そのため、自分の関わった繊維が洋服という商品になり、店頭に並んでいるのを目にする機会も多くあります。自分が携わった繊維という製品が実際に街中で身につけられていたり、店頭へ並んでいたりするのを見ることで「自分の関わった製品が、人々の役に立っている」と実感できることが魅力です。
また、衣料品などをより良く、使いやすくするための業務に関わることができるのも魅力だといえるでしょう。例えば、1939年にアメリカにて開発された合成繊維のナイロンは、綿などがまだ主流だった当時では革新的な素材でした。ナイロンは綿の約10倍の強度があり、摩擦にも強く長持ちする素材です。ナイロンを使った衣料品は、従来のものとは比べ物にならないほど使いやすくなりました。このような世界を変えられるほどの素材の発見や開発に携われることにも、大きなやりがいを感じられるでしょう。
繊維業界の代表的な企業の例
・東洋紡株式会社
・セーレン株式会社
・日清紡ホールディングス株式会社
・富士紡ホールディングス株式会社
繊維業界の中でも、企業ごとの特色はさまざまです。例えば、繊維に「汚れがつきにくい」といった付加価値を与えて他企業との差をつける、などの工夫を各企業が実践しています。
「東洋紡株式会社」は、繊維事業の他にも、パッケージに使うようなフィルムや電気自動車に使うようなプラスチック資材などの生産も行う企業です。特に高機能を備えた繊維の開発を得意としており、例えば吸水速乾性と通気性に優れた綿100%の繊維素材などを開発しています。こうした高機能を備えた繊維を生産できるのは、東洋紡株式会社独自の特殊な技術があるからです。以上のように、高度な技術力を用いた繊維の開発を東洋紡株式会社ならではの強みとしています。
「セーレン株式会社」は、静電気除去繊維の国内トップシェアを誇る企業です。静電気除去繊維以外にも、金属の導電性を兼ね備えた機能性を持つ導電織物・導電不織布など、多彩な機能を備えた繊維を開発しています。繊維事業以外にも、カーシートなどの車輌資材や建築資材、医療関連商品の生産事業も展開しているのが特徴です。近年では、超小型人工衛星「CubeSAT(キューブサット)」の開発にも取り組んでいます。
「日清紡ホールディングス株式会社」は、繊維事業以外に、精密機器や化学品事業なども展開している企業です。「環境」と「エネルギー」の分野を軸に研究開発に取り組んでおり、具体的には人々の生活に関わる衣料品や、自動車の部品として使われる摩擦材などの研究を行っています。繊維事業においては、独自の技術で開発したポリウレタン弾性繊維「モビロン」が商品の代表例です。他事業で培った技術と経験を活かし、モビロンをテープやフィルムなどに活用して商品展開しています。
「富士紡ホールディングス株式会社」は、独創的な繊維商品を提供している企業です。例えば、太陽光やブラックライトに当たると糸の色が変化する「UVマジック」という商品があります。外出すると色が変わる刺繍などに使えるため、衣服を生産するアパレル業界などからも注目されているのが特徴です。また、富士紡ホールディングス株式会社は、独自のアパレルブランドも持っています。自社で糸から衣料品まで一貫して製作できることも大きな強みです。
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繊維業界の職種
繊維業界の仕事には、具体的にどのような職種があるのでしょうか。ここでは、繊維業界の主な職種についてご紹介します。
研究開発
研究開発職は、新商品に繋がる新技術や新素材などを発見するための研究・開発を行う仕事です。研究開発職が担う業務は、大きく基礎研究と応用開発の2種類に分けられます。基礎研究は、時間をかけて新たな技術や新素材、素材の新機能などを検討する研究です。例えば東洋紡株式会社では、繊維の快適性を改善するための技術や新素材の研究に力をいれており、素材の快適さの度合いを数値化できる快適性評価技術を構築しています。この快適性評価技術を構築するための研究や、快適性評価技術を利用して繊維の快適性を高める技術・素材の研究を行うのが基礎研究です。一方、応用開発では、製品の幅を広げたり技術を応用したりするための方法を検討しています。例えば、通気性の良い繊維を衣服用に開発した場合に、その繊維を「衣服以外にも活用する方法はないか?」と検討し、活用方法を確立することが仕事です。
生産技術
生産技術は、製品の品質を上げるための生産方法の検討や、効率よく生産するための生産設備の開発、導入する生産設備の検討などを行います。繊維メーカーの生産現場では、ほとんどの場合、生産を担っているのは機械です。製品の品質を安定させ、継続的に大量生産するには、生産設備や機械を整える必要があります。また、繊維が高機能・高性能になればなるほど生産する難易度も上がるため、設備も高機能・高性能なものに変えていかなくてはいけません。例えば、強度や耐熱性などが従来の繊維よりも上がっているスーパー繊維の生産では、従来の繊維の生産方法に加えて手間が増えます。手間が増える分時間もかかるため、必要な量を生産するには従来よりも一度に大量に生産でき、時間も短縮できる設備が必要です。生産技術では、このような現状を踏まえた上で、対応できるような生産方法や生産設備を実現する業務を担っています。
プラントエンジニア
プラントエンジニアは、生産現場である工場設備の故障対応やメンテナンス、改善などを行う業務です。安定した生産のためには、安定した設備を備えた工場の存在が不可欠です。特に化学繊維の生産現場では、多くの薬品を工場内で使用していたり、高温・高電圧の機械を使って化学反応を起こしていたりするため、よりこまめなメンテナンスが必要となります。また、工場設備が故障した場合は生産が止まってしまうため、すぐに原因を突き止め対応しなければいけません。プラントエンジニアは、以上のように、工場現場の安全と安定的な生産を保つための業務を行っています。
製造
製造は、実際に工場現場で製品を作る仕事です。生産技術と少し似ていますが、生産技術よりも製品を作る現場に近いのが製造職となっています。しかし、製造職の仕事は実際に生産機械を動かして製品を作ることだけではありません。工場で働く人々の管理をすること、納期を守れるような生産スケジュールの管理なども製造職の業務です。繊維や糸の製造には、多くの人の手と機械が関わります。そのため、品質や生産スピードが安定して保たれるよう、現場で人や環境の管理をすることが製造職の大切な仕事です。
品質管理
品質管理は、出荷前の製品の品質や安全性などに問題がないか、最終的な検査を行う業務です。検査項目としては、例えば「製造方法や使用している素材が規定通りになっているか」や「品質が基準を満たしており、品質のばらつきがないか」などが挙げられます。特に化学繊維の製造工程では、製造環境の条件などが少し変わるだけでも品質に影響するようなものもあり、細部まで品質検査を行わなければいけません。また、このような品質検査項目を決めることや、効率のよい検査方法を考えることも品質管理の業務です。
営業
営業は、製品や製品を作る技術をお客様へ売り込む仕事です。繊維メーカーでは、衣料品の原料となる糸や布を作っているケースが多いため、基本的には糸や布を使って衣料品を作るアパレルメーカーなどの企業へ製品の売り込みを行います。また、自社で衣料品も生産しているメーカーは、個人のお客様へ製品を販売している小売店などへも営業を行うことが特徴です。また、製品を作る技術を売り込むこともあります。例えば「医療行為に必要な医療用チューブを作るために、強度の高い素材が欲しい」という要望があった場合、強度の高い繊維素材を作った技術を活用することも可能です。営業職は、このような他業種・他業界へも自社の技術を売り込み、お客様に提案していく業務を担っています。
繊維業界で求められる人とおすすめの学部
繊維業界に就職するためには、どのような経験や資格が求められるのでしょうか。ここでは、繊維業界に向いている人の特徴、おすすめの学部などもご紹介します。
求められる経験や資格
繊維業界への就職を目指すにあたって、必須の経験や資格はありません。仕事を行う上で必要な資格についても「入社後の取得で問題ない」としている企業がほとんどです。また、繊維業界は化学知識などが必要なため理系のイメージが強いですが、文系でも応募できます。
繊維業界に向いている人
繊維業界に向いている人の特徴は、以下の2つです。
・発想力を活かして働きたいという気持ちがある
・挑戦することが好き
発想力を活かして働きたいという気持ちがある
繊維業界では、新技術や新素材を見つけるために、すでにある技術や素材を応用した発想が必要です。例えば日清紡ホールディングス株式会社では、衣服などの形態安定加工技術を開発し、すでに「洗濯しても、アイロンがけがいらないシャツ」を販売しています。形態安定加工技術とは形を崩れにくくする加工技術のことで、カーテンなどにプリーツをつけるためにも使われているものです。しかし「これを衣服であるシャツに活かすことで、アイロンがけが不要になる」という発想がなければ、アイロンがけがいらないシャツは誕生していなかったでしょう。また、研究開発以外でも、発想力は必要です。例えば生産現場では効率のよい生産方法を探すために、営業の現場では新規顧客を得るために、既存の知識や経験を活かした発想力が求められます。以上の理由から、発想力を活かして働きたい方には向いているでしょう。
挑戦することが好き
繊維業界は、技術や素材が進化するスピードが速い業界です。他企業との競争に勝つため、お客様(繊維を購入する企業)の要望に応えるためには、日々技術や素材の知識を取り入れなくてはいけません。また、無理難題に思われる課題にも挑戦していく姿勢が必要です。例えば、開発した繊維素材を購入してもらうためには、繊維を使って別の製品を作るメーカーが加工しやすかったり汚れがつきにくかったりするなどの「使いたい」と思ってもらえるような工夫を取り入れる必要があります。既存の技術や素材では実現が難しい場合でも、諦めずに実現へ向けて取り組まなくてはいけません。そうでなければ、他企業との競争に勝てない可能性があるからです。しかし、その一方で、実現できた際は大きな達成感を得られるでしょう。挑戦することが好きな方であれば、やりがいを持って取り組めるはずです。
繊維業界で働くためにおすすめの学部・学科(コース、専攻)
繊維業界で、研究開発職や製造職などの技術系職種に就職したい場合は、理系分野に進むとよいでしょう。特に、化学分野の学部に進むのがおすすめです。化学分野について学べる学部には、理学部があります。理学とは、数学、物理学、化学、生物学などを用いて、自然科学の基礎法則や仕組み、理論などを研究する学問です。学部内で学科が分野ごとに分かれている大学が多く、化学について学ぶには「化学科」などの学科を選ぶとよいでしょう。繊維に特化した学部・学科を選ぶのも良い方法といえます。
営業職などの事務系職種の場合は、文理不問のケースが多いです。そのため、文系の学部を出ていたり化学分野以外の勉強をしていたりする場合でも目指せます。しかし、製品などについて理解するには化学分野の知識が必要となる場面も多いため、化学分野の勉強をしておくと活躍の場が広がるはずです。
化学分野の勉強ができる学部・学科には、以下のようなものがあります。
*関西学院大学理学部化学科
*広島大学理学部化学科
*千葉大学理学部化学科
*学習院大学理学部化学科
*奈良女子大学理学部化学生物環境学科
*京都工芸繊維大学工芸科学部応用化学課程
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繊維業界では、私たちの生活に身近な衣料品などをはじめとし、医療やインテリアなどさまざまな分野の仕事に携われます。特に化学繊維については技術の進歩が速く、これからもより快適な素材の開発が進むでしょう。そのため、発想力を活かして新しいものを生み出していきたい方や、誰も成し遂げたことのないものに挑戦するのが好きな方にもおすすめの業界です。
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