紙・パルプ業界とは何をする業界?詳しい職種とおすすめの学部学科
2024.04.19
紙・パルプは、印刷用紙やトイレットペーパーの原料となる素材です。紙・パルプ業界では、原料となる木や古紙から紙・パルプを製造する業務を担っています。原料の研究開発やものづくりに関わる仕事が多いため「理系の人が就職しているイメージがある」という方も多いでしょう。しかし、実際には文系が活躍できる職種も複数あるのが特徴です。
今回は、紙・パルプ業界の業務内容や職種、目指せる大学・学部について解説します。
目次
紙・パルプ業界の魅力や代表的な企業の例
紙・パルプ業界には、どんな特徴があるのでしょうか。ここでは、紙・パルプ業界の基礎知識や働く魅力、代表的な企業の例をご紹介します。
紙・パルプ業界とは?
紙は私たちが日常的に目にしている印刷用紙やトイレットペーパーなどのことを指し、パルプとはそれらの紙の原料となるものです。紙は、このパルプという木材チップや古紙から取り出した繊維を梳(す)いて伸ばし、乾かすことで作られています。紙・パルプ業界は、こうした紙の製造・販売を担っている業界です。また、紙の製造に使われる新素材の研究開発なども行っています。紙・パルプメーカーでは、直接私たちのような個人の消費者へ向けて製品を販売することはほとんどありません。基本的には、紙を使って製品を製造している印刷会社や衛生用品会社、一般家庭向けに商品を販売するスーパーなどの企業を相手に取引をしています。
紙・パルプ業界で働く魅力
近年では「インターネットの普及により、紙の需要は減っている」というイメージが強いですが、実は「紙でなければいけないもの、代替品が少ないもの」もまだあります。例えば、牛乳パックです。牛乳は「栄養価が高く、雑菌などが入るとすぐに増殖して傷みやすい」という性質を持っているため、ペットボトルでの保存が好ましくないとされ、紙パックでの販売が推奨されています。このような紙の需要がある以上、お客様からの紙製品への要望も尽きることはありません。そのため、紙・パルプ業界では「既存の紙にはない、新しい価値」を研究開発し続け、提供していく姿勢が必要です。世の中に求め続けられる紙・パルプ製品を提供できることに、やりがいを感じられるでしょう。
また、環境問題に大きく貢献できることも魅力といえます。紙の原料となるパルプ、そのパルプは木材チップの繊維からできているため、紙の原料は木材です。そのため、紙・パルプ業界は木に関する環境問題とも密接な関係にあります。木は限りある資源であるため、この先も紙を作っていくには、木と木に関わる人の生活を持続可能なものにする方法を考えていかなくてはいけません。紙・パルプ業界では、紙の製造という観点から、この問題に取り組むことができまます。持続可能な未来に大きく貢献することも可能です。
紙・パルプ業界の代表的な企業の例
・日本製紙株式会社
・レンゴー株式会社
・大王製紙株式会社
・三菱製紙株式会社
紙という同じ製品を作っている紙・パルプ業界でも、事業展開の方法や力を入れている分野などによって、企業ごとの特徴は異なります。
例えば「日本製紙株式会社」は、木という資源を紙の製造だけでなくさまざまなものに活用するため、多種多様な事業を展開している企業です。「木から紙を作る」という基本の事業の他に、木の主要成分である「リグニン」などの物質を有効活用するための研究開発事業なども行っています。この「リグニン」という物質は、従来では木から紙を作る過程で不要なものとして破棄されていました。しかし、日本製紙株式会社では無駄なく活用するため、コンクリートの添加剤として使うなどの活用方法の研究開発が進められています。
「レンゴー株式会社」は、紙の製造だけでなく、段ボールやパッケージなどの包装紙を作る事業も行う企業です。製紙事業以外の事業展開は包装事業のみに特化しており、製紙から一貫して自社で行うことで、包装類の新製品への素早い対応も実現しています。特徴は、高精細な印刷を紙に施せる技術を持っていることです。自社にデザイン部門もあるため、製紙からパッケージのデザイン・印刷まで行え、完成まで対応できます。私たちが店で見かけるお菓子などのパッケージも、こうした鮮やかで美しい印刷を紙に施せる技術を使って製作されているものです。
「大王製紙株式会社」は、製紙事業の他に、ティッシュペーパーやトイレットペーパーといった衛生用紙、紙おむつ、マスクなどの商品の製造も行っています。「エリエール」ブランドは国内の家庭紙市場シェア1位を獲得した経験もあり、家庭紙(一般家庭で使用される衛生用紙)の製造においてもトップの企業です。国内外問わずグループ会社を複数持っているため、紙に関わるさまざまな事業、仕事に挑戦できる環境も整っているといえます。
「三菱製紙株式会社」は、不織布関連製品や医療・ヘルスケア関連製品などの生産も行う企業です。製紙事業においては、紙を作るだけでなく、紙の関連製品も作っています。例えば「紙ストロー」です。三菱製紙株式会社の紙ストローは環境保全にも取り組むため、FSC(森林管理協議会)が認定した森林認証紙を使用しています。FSC森林認証紙とは「森林の管理や伐採が、環境や地域社会に配慮して行なわれているかどうか」を評価・認証した上で、その森林木材によって作られた紙のことです。三菱製紙株式会社の紙ストローは、環境保全に貢献しているとされ、FSCにも認証されています。このように、環境に優しい紙製品の製造に取り組んでいることが特徴です。
紙・パルプ業界に興味がある方は「JOB-BIKI」を活用して具体的な進路を調べてみるのをおすすめします。「JOB-BIKI」の「就職先検索」で企業名を入力すると、その企業の情報や就職した先輩たちの出身大学を確認可能です。進学先選びの際にも役立つでしょう。
紙・パルプ業界の職種
紙・パルプ業界の仕事には、具体的にどのような職種があるのでしょうか。ここでは、紙・パルプ業界のおもな職種についてご紹介します。
研究開発
研究開発職は、紙の製造方法や使用する薬品、原料について調べ、新たな技術や素材を開発する仕事です。詳しい仕事内容について、塗工紙(印刷に適した滑らかさや強度を付与するため、紙に塗料を塗った紙のこと)の研究開発を例に挙げて説明します。塗工紙は、印刷することを前提として作られているものです。そのため、印刷をしても紙が歪まない程度の強度や、印刷したインクが綺麗に見えるような白さ、滑らかさが必要となります。これらを塗工紙に付与するには、紙に塗る塗料の薬品の配合や塗料の塗り方についても検討しなくてはいけません。研究開発職では、以上のような検討を繰り返し行い、例えば「従来の強度を保ったままでより薄くするためには、どのような薬品の配合が適しているか。どのような塗り方が適しているか」などを研究しています。また、工場と連携しながらコストパフォーマンスの高い製造方法を編み出したり、工場でのトラブルがあった場合に解決策を考えたりすることも業務です。
生産技術
生産技術は、紙やパルプを生産する機械のメンテナンスや、新しい生産機械の開発などを行います。紙を安定して製造するためには、人の手で行うよりも速く正確に量産できる機械が不可欠です。そのため、生産技術では日々生産機械の精度を上げたり、不具合なく機械が動くようにメンテナンスをしたりしています。紙やパルプを生産する機械の種類は、実に多種多様です。作る紙によって原料や求められる品質が異なるため、それぞれに適した機械も必要となります。このような紙にあわせた機械を開発・メンテナンスし、安定的な生産を支えているのが生産技術担当です。
プラントエンジニア
プラントエンジニアは、紙を製造する工場に備えられた設備のメンテナンスや、設備の改善などを担う業務です。生産技術は「紙を製造する機械」に携わる業務ですが、プラントエンジニアは例えば、工場設備を動かすための電力を供給する発電機といった「工場を動かすために必要な設備」に携わる業務である点が異なります。紙・パルプメーカーの中には、自社工場に発電設備などを備えているケースもあり、プラントエンジニアの活躍の場も多いです。例を挙げると、日本製紙株式会社では自社の工場に、ボイラーにて蒸気をおこし熱エネルギーとして利用したり、タービンを回したりして発電を行う設備を備えています。こうしたボイラーやタービンという発電設備を安定して動かすための検討や実績管理、計画立案、工事施工などを行うのが、プラントエンジニアの仕事です。
品質管理
品質管理は、製品である紙を出荷する前に、不備がないか最終的なチェックを行う仕事です。お客様の要望する「強度や色、見た目」などの品質水準が満たされているか、細かい検査項目に沿って確認します。具体的な検査項目としては、紙の強度や色を専用の試験機で測定・数値化する検査や、匂いなどの人の感覚を使って行う官能評価の検査などです。また、より効率的な検査方法などの検討も行います。
営業
営業は、製造した紙製品をお客様に購入してもらうため、実際にお客様とやり取りして商品の提案や紹介を行います。基本的には、紙・パルプメーカーが取引するお客様は、紙・パルプ素材を使って別の製品を作る企業です。例えば、ケーキなどを買った時に渡される持ち帰り用の箱などが、紙・パルプ素材を使った紙製品として挙げられます。また、個人のお客様に対してトイレットペーパーなどの商品を売る、スーパーなどの企業もお客様です。すでにある製品の提案・紹介だけでなく、時にはお客様が求める製品をヒアリングし「自社の技術であれば、そのような製品を生産できる」というように、お客様の要望に応える製品を提案する場合もあります。
紙・パルプ業界で求められる人とおすすめの学部
紙・パルプ業界に就職するためには、どのような経験や資格が求められるのでしょうか。ここでは、紙・パルプ業界に向いている人の特徴やおすすめの学部などもご紹介します。
求められる経験や資格
紙・パルプ業界へ就職するために、必須の経験や資格はありません。ただし、研究開発や生産技術などの技術系職種や、木材の調達など一部の事務系職種については、卒業する学部・学科が限られている場合があります。その他の事務系職種については、文理不問となっているケースが多いです。自分が目指したい職種にあわせ「どのような勉強が必要なのか?」を確認しておくとよいでしょう。
紙・パルプ業界に向いている人
紙・パルプ業界に向いている人の特徴は、以下の2つです。
・環境問題の改善に貢献したいと考えている
・新しいアイディアを考えること、形にすることが好き
環境問題の改善に貢献したいと考えている
紙・パルプ業界は、限りある資源である木を原料としているため、森林との関わり方などの環境問題と向き合う場面も多いです。多くの紙・パルプメーカーも環境問題には取り組んでおり、環境を守りながら持続可能な開発をしていくための研究などを行っています。例えば、森林保全のための森林環境の保護活動や、製造の際に環境への影響が出にくいエネルギーを活用するなどの活動です。そのため「環境問題の改善に貢献したい」と考えている方は、やりがいを持って働けるでしょう。
新しいアイディアを考えること、形にすることが好き
紙・パルプ業界では、新たな紙の機能や付加価値を見つけるために、日々研究が進められています。より環境に優しい紙の製造を行うためには、さらなる技術革新も必要です。そのため、新しいアイディアを考えたり形にしたりすることが好きな方には向いているといえます。新素材として注目されている「セルロースナノファイバー」は、紙・パルプ業界で進められている技術革新の一例です。セルロースナノファイバーはパルプをナノサイズまで小さくして作った繊維物質で、植物由来の環境に優しい素材でありながら強度が高いため、例えば食材の鮮度を保つためのフィルムなどに活用されています。このような素材を見つけるためにも、既存の技術や素材を新しい観点から見つめなおすことは重要です。「新しいアイディアを考えること、形にすることが好き」という方には、特に適しています。
紙・パルプ業界で働くためにおすすめの学部・学科(コース、専攻)
紙・パルプ業界で技術系の職種に就きたい場合は、理学部の化学系の学科に進むとよいでしょう。理学では、自然科学の法則や理論、仕組みなどを学べます。紙・パルプメーカーの仕事では、研究開発や製造など全ての工程で化学の知識が必要となるため、特に化学分野について学んでおくのがおすすめです。
事務系職種については、文系や理系の他の分野に進んでいても目指せます。学部・学科は不問としている企業も多いです。しかし、社内の製造職と話す際やお客様へ製品の説明・紹介を行う際に化学の知識が必要となる場面もあります。そのため、化学について学んでおくと知識や経験を活用できる場面も多いでしょう。
理学、特に化学分野について学べる大学、学部には、以下のようなものがあります。
*広島大学理学部化学科
*学習院大学理学部化学科
*東京都立大学理学部化学科
*大阪大学理学部化学科
*東邦大学理学部化学科
紙・パルプ業界への就職を目指すあなたは「JOB-BIKI」で進路検索!
紙・パルプ業界は、私たちの生活に不可欠な紙製品の製造・販売を担う業界です。限りある木という資源を有効活用するため、環境を守って持続可能な開発をしていくために、環境問題への取り組みにも貢献できる仕事だともいえます。新たな紙製品の開発や新素材の研究は日々進められているため、チャレンジできる領域も幅広い業界です。「環境問題へ取り組みたい」という方や「新しいアイディアを考えること、形にすることが好き」という方は、やりがいを感じながら働けるでしょう。
紙・パルプ業界へ就職するための大学選びには「JOB-BIKI」の活用がおすすめです。「JOB-BIKI」の「就職先検索」では、紙・パルプ業界の企業情報やその企業へ就職した先輩の出身大学が調べられます。検索方法は「就職先検索」の「業種から探す」から「製造・機械」の「パルプ・紙」を選択するだけです。大学選びの参考になるはずですので、ぜひ検索してみてください。