ニュートリノとは何かわかりやすく解説|学べる大学や学部も紹介
2024.07.04
「ニュートリノって何?」「ニュートリノの研究でノーベル賞を受賞したみたいだけど、何がすごいの?」と疑問に思っている人もいるでしょう。
ニュートリノは、宇宙に大量に存在する不思議な素粒子です。電気を帯びておらず、ほとんど質量がないため、物質をすり抜ける性質があります。ニュートリノは、私たちの目に見えませんが、1秒間に数百兆個もの膨大な数が、私たちの体を通り抜けているんですよ。
ニュートリノの研究は、宇宙の謎や物質の起源に重要な役割を果たしていると考えられています。
本記事では、ニュートリノ研究について分かりやすく解説しています。大学でのニュートリノ研究についても紹介するので、最後まで読めば、大学で行う研究の参考になるでしょう。
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目次
ニュートリノとは宇宙を駆け巡る幽霊粒子
物質は、原子から成り立っています。原子は、中心に原子核があり、その周りを電子が回っています。原子核は、陽子と中性子でできており、陽子と中性子は、さらに小さな素粒子が集まってできているのです。
つまり、私たち生物や身の回りにある物、水や空気もすべての物質は素粒子でできています。素粒子とは、物質を構成する最小単位のことで、これ以上分割することができないと考えられています。現在までに17種類の素粒子が発見されており、ニュートリノもそのうちのひとつです。
ニュートリノは、とても小さくて軽い粒子です。電気を帯びていないため、他の物質と反応することはほとんどなく、光と変わらない速さで宇宙を駆け巡り、物質をすり抜けていきます。地球上では、太陽や星から来る多くのニュートリノが、毎秒私たちの体を通り抜けていますが、私たちはそれを全く感じません。ニュートリノは、ほとんど物質と反応しないことから、「幽霊粒子」とも呼ばれています。
ニュートリノを研究することで、宇宙の謎解明につながったり、物質が存在する理由が分かったりします。「それが何に役立つの?」と疑問に思う人もいるでしょう。現時点では、私たちの生活を豊かにしたり、新しい技術に応用したりといったことはできません。ただし、ニュートリノの研究は、数百年後に新しい技術の土台になる可能性を秘めています。たとえば、「電子」は1897年に発見された素粒子ですが、現在では、電子レンジやスマホ、テレビなど多くの電化製品に使われていますよね。
ニュートリノ研究の歴史
ニュートリノ研究の歴史は、1930年代に遡ります。オーストリアの物理学者ヴォルフガング・パウリが、ニュートリノの存在を予言しました。
その後、1956年にアメリカの物理学者クライド・コーワンとフレデリック・ライネスがニュートリノの存在を実験的に確認し、ニュートリノ研究が本格的にスタートしました。
コーワンとライネスは、ニュートリノが水中で反応を起こすと、チェレンコフ光が発生することを発見しました。この実験は、ニュートリノの存在を直接的に確認した最初の実験として有名ですが、同時にニュートリノ反応でチェレンコフ光が発生することを初めて示した実験でもありました。
1960年代には、ニュートリノの種類が複数あることが発見され、電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノの3つの種類(フレーバー)確認されました。
電気を帯びていないのに、電子ニュートリノという名前がついているのは、ニュートリノが電子と一緒に見つかることが多いからです。「電子と一緒に見つかるニュートリノ」という意味で、「電子ニュートリノ」と名付けられているのです。
ニュートリノの観測施設「スーパーカミオカンデ」
岐阜県飛騨市神岡町の地下1,000メートルに、ニュートリノ観測施設「スーパーカミオカンデ」があります。
スーパーカミオカンデは、直径39メートル、高さ42メートルの巨大な水タンクを使って、ニュートリノを観測しています。タンク内には5万トンの超純水が満たされ、その内壁には1万1,000本以上の光センサーが取り付けられています。
スーパーカミオカンデは、太陽や大気、超新星爆発などから飛来するニュートリノを観測し、ニュートリノの性質や宇宙の謎に迫る研究を行っています。
1998年には、スーパーカミオカンデ実験でニュートリノ振動の証拠が観測され、ニュートリノに質量があることが明らかになりました。ニュートリノ振動とは、あるフレーバーのニュートリノが、飛んでいる間に別のフレーバーに変化する現象です。例えば、電子ニュートリノとして出発したニュートリノが、ミューニュートリノやタウニュートリノに変化するのです。
この発見は、ニュートリノ研究に大きな進展をもたらしました。これまでの研究では、ニュートリノは物質との相互作用がとても弱いため観測が非常に難しく、質量を正確に測定することができませんでした。そのため質量はゼロと考えられていたのです。
現在、日本では、J-PARC(茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設)からスーパーカミオカンデに向けてミューニュートリノビームを打ち込むT2K実験が行われており、ニュートリノ振動のより詳細な測定が進められています。
T2Kは「Tokai to Kamioka」の略で、茨城県東海村からニュートリノのビームを作り、295km離れた岐阜県神岡町にあるスーパーカミオカンデに向けて撃ち込むという実験です。
ニュートリノは目に見えない小さな粒子で、普通の物質をすり抜けてしまうので、捕まえるのが難しいです。そこで、科学者たちは加速器を使ってニュートリノをたくさん作り、それを一つの方向に向けて撃ち出すことにしました。これがニュートリノビームです。
ニュートリノビームを作る目的は、ニュートリノを一定の方向に集中させ、離れた場所にある大規模な検出器でニュートリノを捕まえやすくすることです。ニュートリノビームには、ニュートリノ以外の粒子も含まれていますが、加速器から離れるにつれて、他の粒子は減っていきます。一方、ニュートリノは物質との相互作用が非常に弱いため、ほとんど影響を受けずに長い距離を飛行することができます。
J-PARCでは、ミューニュートリノを作りニュートリノビームが長い距離を進む間に、ニュートリノが変化(振動)する様子を観察します。スーパーカミオカンデは、ニュートリノが水の中で起こす反応を見つけることができる特別な装置です。
この実験で、ニュートリノがどのように振動するかを詳しく調べることができ、ニュートリノの性質、特に質量についてのヒントが得られると期待されています。
現在は、2027年の観測開始を目指し「ハイパーカミオカンデ」が建設中です。大きさと性能を大幅に向上させ、スーパーカミオカンデの100倍のスピードでデータを取得できます。ハイパーカミオカンデの登場により、日本はこれからも世界をリードするニュートリノ研究の中心地であり続けるでしょう。
参考:ニュートリノを知る | スーパーカミオカンデ 公式ホームページ (u-tokyo.ac.jp)
ニュートリノの研究でノーベル賞を受賞した日本人
ニュートリノの研究でノーベル賞を受賞した日本人を紹介します。
・小柴 昌俊(こしば まさとし)
小柴昌俊氏は、2002年にノーベル物理学賞を受賞した科学者です。スーパーカミオカンデを作り、星が大爆発を起こした時に放出されたニュートリノを世界で初めて検出しました。小柴氏の研究は、ニュートリノを使って宇宙の謎に迫る「ニュートリノ天文学」の発展に大きく貢献しました。
・梶田 隆章(かじた たかあき)
梶田隆章氏は、2015年にノーベル物理学賞を受賞した日本人科学者です。スーパーカミオカンデを使って、大気中で発生したニュートリノを観測し、ニュートリノが別の種類のニュートリノに変身する現象「ニュートリノ振動」を発見しました。この発見は、ニュートリノに質量があることを示す重要な手がかりとなり、宇宙の成り立ちを理解するための新しい道を開きました。
ニュートリノの研究がしたい人におすすめの学部
ニュートリノの研究をしたい人におすすめの学部は、以下です。
- 理学部(物理学科など)
- 工学部(原子力工学科、応用物理学科など)
- 理工学部
ニュートリノ研究の基礎となる素粒子物理学や宇宙物理学は、主に理学部の物理学科で学ぶことができます。ニュートリノの性質や振動現象、宇宙におけるニュートリノの役割などを深く理解するために、物理学の幅広い知識が必要です。
ニュートリノ検出器の開発や運用には、工学的な知識が必要不可欠です。工学部の原子力工学科や応用物理学科では、ニュートリノ観測に用いられる高度な技術や装置について学ぶことができます。
一部の大学には、理学と工学を融合した総合理工学部や理工学部があります。これらの学部では、ニュートリノ研究に必要な物理学と工学の両方の知識を身につけることができます。
ちなみに、ノーベル賞を受賞した小柴氏は、東京大学 理学部 物理学科を卒業後、ロチェスター大学 大学院を修了しています。梶田氏は、埼玉大学 理学部 物理学科を卒業後、東京大学大学院 理学系研究科物理学専攻の博士課程を修了しています。
ニュートリノの研究に強い大学3選と研究事例
ニュートリノの研究に強い大学3選とその研究事例を紹介します。
- 東京理科大学 創域理工学部
- 京都産業大学 理学部
- 慶應義塾大学 理工学部
東京理科大学 創域理工学部
星が一生を終えるとき、大爆発が起こります。この爆発を超新星爆発と呼びます。爆発の時には、たくさんのニュートリノが放出されます。
この研究では、星の重さや星に含まれる金属の量などによって、ニュートリノの量や性質が変わることがわかりました。
また、ニュートリノには質量の違いがあり、その違いによってニュートリノの振る舞いが変わります。この質量の違いを質量階層と呼びます。
研究の結果、星の爆発の仕方によって、質量階層の影響が変わることもわかりました。
超新星爆発とニュートリノの関係を明らかにすることで、宇宙の仕組みを少しずつ理解できるでしょう。
京都産業大学 理学部
京都産業大学は、爆発が始まって1秒以降に出てくるニュートリノに注目し、ニュートリノがどのように飛び出してくるかを正確に計算することに成功しました。
星が大爆発する時には、いろいろな信号が出ますが、爆発が始まってすぐの1秒以内は、とても複雑でよくわかっていませんでした。
そこで、星が爆発した時のニュートリノのデータを計算によって分析することで調査を進めることにしたのです。
この結果、爆発でできた中性子星(大質量の星が超新星爆発を起こした後に残される、非常に高密度の天体)の大きさや重さを高い精度で測れることを明らかにしました。
このような研究によって、星が大爆発する時の様子がより詳しくわかるようになりました。宇宙の仕組みを解き明かす手がかりが、またひとつ増えたと言えるでしょう。
慶應義塾大学 理工学部
慶應義塾大学 理工学部による「ニュートリノ質量を説明する最小超対称標準模型の構築」の研究では、ニュートリノを含む素粒子の質量(重さ)がどのように決まるのかを研究しました。
超対称性理論やF理論と呼ばれるような複数の理論を活用することで、宇宙の始まりにあった粒子と反粒子の数の差を説明したり、スニュートリノというニュートリノのパートナーと思われる粒子を実験で見つける方法を提案するなどの活動をしています。
さらに、最近の実験で見つかった、これまでの理論では説明できない結果を、超対称性理論や新しい種類の素粒子の存在を仮定することで説明しようとしました。
このような研究によって、私たちの宇宙を作っている素粒子の性質や、宇宙の始まりで何が起こったのかを理解するための手がかりが得られたのです。
このような研究が各大学で行われていることを知っていましたか?研究から大学を探せる「スタビキ」では、さまざまな研究を知ることができます。「ニュートリノ」と検索してみると、ほかにも多くの研究が行われていることが分かります。ぜひ、自分の興味のある研究を探してみてくださいね!
ニュートリノに関わる職業
ニュートリノに関連する職業は主に研究職が中心ですが、いくつかの選択肢があります。
【大学や研究機関の研究者】
大学や研究機関に所属し、ニュートリノ物理学の研究を行います。
実験や理論的な研究を通じて、ニュートリノの性質や宇宙における役割の解明に取り組みます。
【国立研究所や国際研究機関の研究員】
KEK(高エネルギー加速器研究機構)やJ-PARC(大強度陽子加速器施設)などの国立研究所や、CERN(欧州原子核研究機構)などの国際研究機関で、ニュートリノ関連の実験や研究に携わります。
【検出器の開発・設計エンジニア】
ニュートリノ観測用の検出器の開発・設計に関わるエンジニアとして、研究機関や企業に所属します。検出器の性能向上や新技術の導入に取り組みます。
これらの職業に就くためには、大学院で物理学に関する高度な教育を受けるのが一般的です。また、国際的な共同研究が多いため、語学力やコミュニケーション能力も重要となります。
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ニュートリノの研究は、宇宙の成り立ちや物質の起源に迫る魅力があります。未解明の現象も多く、新たな発見の可能性を秘めています。大学では、最先端の研究設備や優れた指導者のもと、ニュートリノの謎に挑戦できますよ。ニュートリノの研究で、宇宙の神秘に触れてみませんか。
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