通関士とは?仕事内容や将来性、なる方法やキャリアプランを紹介
2023.04.11
「通関士ってどんな仕事をするんだろう?」「通関士の資格をとるのは難しい?」と疑問を持つ人もいるでしょう。通関士は、国際貿易の最前線で活躍する専門家です。輸出入される商品の手続きを適切に行い、関税の計算などを担当します。通関士になるには国家資格の取得が必要です。
この記事では、通関士の仕事内容や資格試験の難易度、年収、そして将来性について詳しく解説します。通関士になるための進路選びに役立つ情報をお伝えするので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
目次
通関士とは?
日本と海外諸国との間では、日々膨大な量の貨物が行き来しています。飛行機や貨物船に乗せられて、外国へ送られたり、外国から届いたりするたくさんの品物。これらが国と国を行き来するには、各国の法律に従って複雑な手続きをしなければなりません。そこで活躍しているのが、この専門的な手続きを担う「通関士」です!ここからは、貿易に欠かせない通関士の仕事内容や必要な資格、仕事に就く方法など進路選びに役立つ情報をお伝えするので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
通関士の仕事内容
通関士とは、法律に基づいて通関手続きを行う専門職です。海外と取引して品物を輸出入する際は、空港や港にある「税関(ぜいかん)」という行政機関で検査を受けた上で、「関税(かんぜい)」と呼ばれる税金を納める決まりとなっています。通関士は、このような税関を通過するための手続き(=通関手続き)を担当しているのです!通関手続きでは、税関へ提出する書類を作成したり、書類の内容が適切であるか審査したりします。また、申請が通らなかった場合に、手続きを依頼したお客様の代わりに、申請内容について税関へ詳しく説明を行うことも、通関士の仕事です。
なお、通関士と似た職種に「貿易事務」があります。貿易事務には必須の資格がなく、通関業務の中でも主に事務の部分を担うのが大きな違いです。
通関士の独占業務
通関士の仕事のなかには、通関士しかできない独占業務と呼ばれるものがあります。それは「通関書類の審査」と「通関書類への記名・捺印」の2つです。
たとえば、日本の会社がアメリカから最新のスマートフォンを輸入するとき。通関士は、商品の種類、数量、価格などが正しく書かれた書類をチェックします。間違いがあれば、税金の計算が狂ったり、違法な物が入ってきたりする可能性があるからです。そして、審査が完了した書類に通関士自身が記名・捺印をして、その正確性を保証します。その重要性から、法律で通関業者は各営業所に最低1名の通関士を置くことが義務付けられています。
通関士が働く場所
通関士の主な職場は、以下のとおりです。
- 通関業者
- 貿易会社
- メーカー
- 運送会社(航空会社や海運会社)
- 倉庫会社
職場ごとの仕事内容について、順番に解説します。
通関業者
通関業者とは、通関業務を担う専門の企業のこと。通関手続き必要とする商社やメーカーなどのお客様に代わって、輸出・輸入の手続きを代行します。主な職場は、税関官署、主要な港湾、国際空港、大規模物流センター周辺、または都市部のオフィスなど、輸出入の拠点となる場所です。
貿易会社
貿易会社は、商品を輸入する前に関税などの税金がいくらかかるのか確認しておく必要があります。そうしないと、売り上げからコストを差し引いた利益がどれくらいになるのか予測できません。
海外から商品を買ってくるビジネスでは、関税をはじめとする輸入に関わるさまざまな要件を熟知している必要があります。その役割を担うのが、国家資格を持つ通関士です。
メーカー
通関士の就職先にはメーカーもあります。メーカーは、海外から原材料を輸入し完成品を海外に輸出したり、自社の海外工場で作った部品を日本に輸入したりします。
輸出入の際は税関に申請書を出す必要があるため、通関士が活躍します。
運送会社(航空会社や海運会社)
飛行機や貨物船で品物を輸出入する運送会社も通関業務を行っているため、通関士が活躍しています。具体的な業務としては、航空会社であれば、輸出入される航空貨物の通関手続きを一手に引き受けます。関係書類の作成、税関への申告、必要な検査への対応など、通関業務全般を担当します。海運会社でも同様に、船舶輸送貨物の通関手続きを中心に携わります。
倉庫会社
通関手続き後の品物の保管を担う倉庫会社でも、通関士が働いていますよ。
大手の総合物流企業が運営する倉庫では、保税蔵置場(外国から輸入された商品を関税を払わずに一時的に置いておく特別な倉庫)が設置されていることが多く、通関手続きが欠かせません。保税状態の貨物の受け入れ、出荷時に通関士が活躍します。
通関士の1日の流れ
通関士の仕事内容は職場によって多少は異なりますが「通関手続きを行う」という基本的な役割は同じです。ここでは、さまざまな顧客の輸出入手続きを幅広く扱う通関業者で働く通関士の1日を見てみましょう。
9:00 | 出社、当日の申告予定確認 |
9:30-12:00 | 輸入申告書の作成・審査 |
12:00-13:00 | 昼食休憩 |
13:00-15:00 | 税関への書類提出、質問対応 |
15:00-16:30 | 保税地域※1での貨物確認 |
16:30-17:30 | その他の業務(臨時開庁申請※2など) |
17:30-18:00 | 翌日の申告内容確認、退社 |
※1保税地域とは、外国から来た物や外国へ送る物を、税金を払わずに一時的に置いておける、税関が管理する特別な場所
※2依頼主の緊急な要望に応えるため、通常の税関業務時間外に申告や検査を行えるよう、税関に特別な許可を申請する手続き
通関士の仕事のやりがい
通関士のやりがいは、世界各国の貿易をつなぐ重要な役割を担うことです。通関書類の審査や記名・捺印は、通関士にしかでない仕事です。自分の仕事が企業の海外展開を後押しし、人々の生活を豊かで便利にしていると感じられる、誇りと責任を持てる職業です。
たとえば、自分が通関手続きを行った最新のスマートフォンが店頭に並んでいるのを見たとき、世界規模の物流に貢献できたことを実感できるでしょう。
通関士の大変なところ
通関士の大変なところは、責任が重くストレスがかかりやすいところです。
貿易で扱う商品の総額は億を超えることもあるため、ひとつのミスが大きな損害を招くこともあり得ます。たとえば、高額な商品の申請や価格や税率をミスすると、関税だけで多額の損失になることも。
通関士は、細かい数字や小難しい文書を扱うのに加え、納期にも追われやすい職種です。ミスを防ぐため、高い集中力と責任感が求められます。
通関士の想定年収
厚生労働省によると、令和5年度の通関士の年収は全国平均で551.4万円です!また、月額の求人賃金は全国平均で26.9万円となっています。日本の平均年収は458万円なので、通関士の年収は高めです。詳しくは後ほど解説しますが、通関士は国家資格が必須な仕事です。専門性が高いことから、一般的に報酬が高い傾向にあります。
【参考】職業情報提供サイト(日本版O-NET)
URL:https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/202
通関士に将来性がある3つの理由
通関士の仕事には将来性があるのか不安な人もいるでしょう。結論、通関士の仕事は将来性のある仕事だと言えます。その理由は以下のとおりです。
- 輸出入の件数は年々増加しているから
- 通関士は人手不足だから
- AIに代替えされにくい仕事だから
順番に解説します。
輸出入の件数は年々増加しているから
以下のグラフは、財務省が発表している日本の輸出入件数の推移です。
出典:財務省関税局が発表しているデータより筆者作成
貿易件数は輸出、輸入ともに年々増加していることが分かります。貿易には通関士による申告手続きが必須なため、通関士は今後も需要がある仕事と言えるでしょう。
通関士は人手不足だから
通関士は人手不足の状況なので、今後もニーズの高い職種と言えます。人手不足の主な理由は、以下のとおりです。
- 資格取得の難易度が高い(合格率10~15%)
- 通関業界全体の高齢化
- 貿易の増加や複雑化に伴う業務量の増加
こうした要因が重なり、通関業務に携わる通関士の絶対数が不足している状況です。グローバル化に伴い、今後も貿易件数は増加すると見込まれるため、通関士のニーズは高いです。
AIに代替されにくい仕事だから
「通関士の仕事はAIに取られるのでは?」と懸念している人もいるでしょう。確かに、商品コードの分類や税金の計算など、一部の業務はAIが担う日も近いでしょう。しかし、人間にしか対応できない部分も多いです。たとえば、天災や事故によって荷物が遅延・損傷した場合、新しい運送ルートに応じた通関手続きの変更や、到着地の変更に伴う手続き書類の差し替えなどです。
輸出入の現場では、予期せぬ事態が発生することも多く、臨機応変な対応が求められるため、人間ならではの経験と勘が重要になります。こういった柔軟な対応はAIには難しいでしょう。
通関士に求められるスキル
通関士の仕事をこなすには、以下のスキルが必要です!
- 正確に仕事を遂行する力
- 英語で読み書きする能力
- 幅広い情報を収集する力
順番に解説します。
正確に仕事を遂行する力
関税の計算や書類の記載内容などに誤りがあると、通関手続きで申請が通らずにお客様へ大きな迷惑をかけてしまうおそれがあります。通関士の仕事にはミスなく慎重に書類作成や審査をこなせる正確さが欠かせません。
英語で読み書きする能力
通関士が取り扱う書類は、英語で記載されたものがほとんどです。通関手続きをこなすには、書類の読み書きが問題なくできる程度のリーディングやライティングのスキルが必須といえます。就職先によっては英会話のスキルを求められることもあり、英語力の高さがアピールポイントになる職種です。
幅広い情報を収集する力
通関士の仕事は、国際社会の動きに影響を受けます。たとえば、大きな災害などをきっかけに、ある日突然に特定の国との輸出入が制限されるかもしれません。日本国内の情報に限らず、海外にまで目を向けて、幅広い情報を収集することが大切です。
通関士になる方法
通関士になるには、「通関士試験」に合格し、通関業者に就職するか、物流、貿易、倉庫会社などの一般企業に就職する必要があります。そのあと、勤務先の企業から財務省へ通関士登録の申請を行います。財務省が申請者の適正性を確認し、通関士登録を許可してはじめて通関士を名乗れるわけです。
つまり、試験合格後に企業に就職した時点では、まだ通関士としての資格は持っていません。勤務先企業からの申請と、財務省による確認を経て初めて、正式な通関士の資格が与えられるという制度になっています。就職する際は「通関士試験合格者」という立場で、将来的に通関士登録を目指す人材として採用されます。入社後、一定期間経て実務経験を積んだ上で、企業を通じて通関士登録を行うことが一般的です。
通関士に必要な資格
通関士として働くには、国家資格が必須です。そのため、通関士になりたい人は国家試験である通関士試験を受験して、合格を目指しましょう。
通関士試験の概要は以下のとおりです。
受験資格 | 制限なし |
試験内容 | ・通関業法 ・関税定率法 ・その他関税に関する法律 ・外国為替及び外国貿易法 ・通関書類の作成要領その他通関手続の実務 |
試験日程 | 毎年10月(合格発表11月) |
受験方法 | マークシート方式の筆記試験 |
受験料 | 2,900円(電子納付) |
受験資格に学歴や仕事の経歴などの制限はありませんが、専門知識を広く問われる点を押さえておきたいですね。
通関士試験の合格率と難易度
通関士試験は、輸出入通関業務に携わる者を対象とした唯一の国家資格です。難易度が高く、合格率は例年10~15%程度です。
過去5年間の合格率は、以下のとおりです。
年度 | 合格率 |
令和元年度 | 13.7% |
令和2年度 | 16.9% |
令和3年 | 15.8% |
令和4年 | 19.1% |
令和5年 | 24.2% |
近年は合格率が上昇傾向にありますが、しっかりと対策をしないと合格できない難関資格となっています。
通関士になるためにおすすめの学部
通関士になるためにおすすめの学部は、以下です。
- 法学部
- 商学部
- 経済学部
- 国際学部
- 国際コミュニケーション学部
通関士試験では、法律や関税などの専門知識を問われます。そのため、法律や経済の分野について大学で基礎から学ぶことで、試験の勉強で有利になるでしょう!通関士に求められる専門知識を身に付けるなら、大学の法学部・商学部・経済学部などがおすすめです。また、通関士の仕事では英語で記載された書類を取り扱うため、英語力も必要となります。国際学部や国際コミュニケーション学部のように、語学力に磨きをかけられる学部もおすすめです。大学生活では4年間という長い時間をかけて、興味のある分野を深く学べます。専門知識を体系的に勉強したり、社会人に求められる教養を広く身に付けたりできるのは、大学に進学する大きなメリットといえるでしょう。
通関士を目指すのにおすすめの大学
法学部や商学部、経済学部など、通関士を目指すのにおすすめの学部を設置している大学を紹介します。
通関士のキャリアプラン
通関士は、貿易事務からのキャリアアップで目指す人も多い上位の資格です。通関士として働き始めたら、仕事で経験を積んで社内の役職を目指す道があります。同じ部署で働く通関士や貿易事務のリーダーとしての役割を担うには、通関業務に精通していなければなりません。また、先ほどご紹介したさまざまな就職先へ転職して、幅広い通関手続きを経験する道もあります。会社が変われば取り扱う品物も変わり、新しい仕事を任されることも。多様な仕事に携わりながら、通関業務の知見を広げられるでしょう!
通関士になりたいあなたは「JOB-BIKI」で進路検索!
ここまで通関士の仕事についてお伝えしました。通関士になるには、通関士試験に合格して国家資格を取得しなければなりません。国家試験の受験資格に学歴や仕事の経歴による制限はありませんが、試験では法律や関税の専門知識を広く問われます。試験に合格するためにも、その後の仕事で活躍するためにも、関連する分野について基礎から学んでおくと安心です!大学選びでおすすめの学部として、法学部・商学部・経済学部・国際学部・国際コミュニケーション学部などが挙げられます。進路を考えるときは、ぜひ「JOB-BIKI ジョブビキ 」を使ってみてくださいね。検索画面の就職先検索で、「通関」や「貿易」などのキーワードを入力すると、通関業務に関わる先輩たちの出身大学を調べられますよ。