行司になるには?行司になる方法と相撲業界「角界」にかかわる仕事
2023.04.21
行司(ぎょうじ)は、日本の国技である相撲をスムーズに進行させる大切な役割です。テレビで活躍する姿を見て、行司の仕事に興味を持った人もいるのではないでしょうか。
この記事では、行司の仕事内容や気になる年収、行司になるための方法や必要な資格について解説します。ぜひ参考にしてみてください。
目次
行司とは?
行司は、日本の国技である相撲をスムーズに進行させる仕事です。烏帽子を被り、大きな軍配団扇を持つ行司の姿を、テレビなどで見て知っている人も多いでしょう。
相撲の長い歴史の中でも行司が初めて登場したのは、織田信長が相撲大会を開催した1570年頃のことです。江戸時代に入ってようやく、相撲の技を代々伝える「行司家(ぎょうじけ)」が生まれました。行司家は相撲が日本各地に広まり始めたことをきっかけに生まれた「相撲の家」で、流派のようなものです。現在では東京行司家の「木村家」と「式守家」が代々行司の仕事を受け継いでいます。
行司の仕事内容
行司は、勝負の審判役です。審判役のほか、番付表の作成や場内アナウンス、巡業の渉外などもおこないます。巡業とは地方を巡って相撲をとることをいい、その際の地域との渉外も行司の仕事です。
また、本場所の安全を願う「土俵祭り」の祭主として神事を執り行います。本場所を全面的にサポートするのが行司の役目といえるでしょう。
土俵入りの誘導役 | 十両、幕内、横綱が土俵入りするときに誘導します。 ※十両、幕内、横綱は力士の階級です。 |
顔触れ言上 | 力士の取り組みが始まる前に、観客に取り組み内容(顔触れ)を見せ、読み上げます。 |
番付を書く | 相撲字で書き上げます。相撲字は江戸文字の一種で、行司から行司に受け継がれています。 |
番付編成や取組編成の補助的役割 | 審査部の指示に従って番付原稿を作り、取組編成の下準備をします。 |
場内アナウンス | 取組の決まり手や、力士の紹介、懸賞の紹介をアナウンスします。 |
勝負結果の記録 | 取組の決まり手と勝負結果を記録します。 |
地方巡業のサポート | 親方と一緒に一足早く巡業先へ向かい、旅館や交通の手配をおこないます。 |
相撲部屋の事務処理 | 所属する相撲部屋で番付を発送し、冠婚葬祭の宛名書き、後援会への連絡事項などをおこないます。親方の奥さんである「おかみさん」と一緒に事務的な作業をすることが多いです。 |
土俵祭りの祭主 | 本場所の安全を祈願し、神事を執り行います。 |
行司は定員が45名以内と定められており、階級社会で下記の八段階に分けられています。
- 序ノ口格
- 序二段格
- 三段目格
- 幕下格
- 十両格
- 幕内格
- 三役格
- 立行司格式式守伊之助/立行司格式木村庄之助(最高位)
階級によって服装や裁く力士の格、給料の額が異なります。従来は年功序列で階級が決められていましたが、1972年から判定や勤務の態度、声量など様々な要素を基準として階級を決めているようです。ただし年間に一定以上の差し違い(誤審)があると、降格処分を受けることもあります。
行司の仕事のやりがい
行司の仕事は、本場所から地方巡業まで力士が相撲をとる場所全般をサポートすることです。力士が相撲に集中できるように場を整え、公正な勝負ができるように審判することで、相撲部屋が活性化して優秀な力士を輩出できるようになるかもしれません。
自分の仕事が力士の育成に役立ち、日本の国技である相撲を支えることにつながるという点にやりがいを感じられるでしょう。
また、行司は巡業のサポートもおこないます。日本各地でスムーズに相撲がおこなわれるのを見て、元気づけられる人々もいるでしょう。相撲を通じて社会貢献できることに、やりがいを感じられます。
行司の仕事の流れ
行司の仕事は、相撲の取組日程に合わせて流れが決まります。本場所の取組は2ヵ月ごとに年6回、1回につき15日間おこなわれるので、その間の審判やアナウンス、勝敗の記録などに対応します。
15日間毎日同じスケジュールとは限りませんが、ある本場所の一日のスケジュールを例に見てみましょう。
8:00 | 寄せ太鼓 ※大相撲が開催されることを人々に知らせる太鼓 |
8:30 | 取組開始 序ノロ取組序二段取組三段目取組幕下取組 |
14:40 | 十両土俵入り 幕下上位5番の取組十両取組開始協会御挨拶十両取組(残り3番の取組) |
15:50 | 中入 幕内土俵入り横綱土俵入り顔触れ言上幕内取組 |
17:55 | 弓取式 (弓取り専門の幕下力士による舞の儀式。このとき行司は弓を渡す役割があります) |
18:00 | 打出し (全取組が終了すること) |
本場所の開催は8時からとすることが多いですが、行司は裏方をサポートするために朝5時には起きて一日中動き回ります。
本場所が開催されていない期間は、巡業のサポートや番付表の作成などの事務作業をおこなっています。とくに番付を書く仕事は重要です。番付の特徴的な文字は相撲字といい、行司から行司に受け継がれている伝統的な江戸文字です。
相撲字はすべての行司が書くことができますが、多くの観客の目に触れる本場所の番付はとくに字がうまい行司が書くことになっています。番付を書き上げるのに10日ほどかかるといわれています。
行司の年収
行司の月収は、階級によって決められています。
- 序ノ口格:1万5000円~2万円未満
- 序二段格:2万円~2万9000円未満
- 三段目格:2万9000円~4万2000円未満
- 幕下格:4万2000円~10万円未満
- 十両格:10万円~20万円未満
- 幕内格:20万円~36万円未満
- 三役格:36万円~40万円未満
- 立行司格式式守伊之助/立行司格式木村庄之助:40万円~50万円未満
序ノ口格のうちは年収に直すと18万〜24万円と新卒社員の月収程度ですが、階級が上がっていけば年収も480万〜600万円まで上がる可能性があります。
ほかにも、衣装代と諸手当がつきます。諸手当の詳細は明かされていませんが、衣装は階級によって異なるため下記のようになっています。
● 幕下格以下(2万円)
● 十両格(2万5000円)
● 幕内格(3万円)
● 三役格(4万円)
● 立行司(5万円)
行司に必要な資質と能力
行司になるために必要な資質で最も重要なのは、「相撲が好き」であることです。
行司の仕事は審判だけでなく、本場所のサポート、掃除や秘書のような役割まで幅広く、行司になってから仕事量の多さに驚く人もいます。大量の仕事の合間に相撲の歴史の勉強をする必要もあるため、自由な時間はあまりないようです。
また、行司も幕下格になるまでは力士と同じ大部屋で一緒に過ごすため、プライベートはほとんどありません。階級社会なので、自分より年下でも階級が上の人に従う場面もあります。行司の初土俵から幕下格、十両格に昇進するまで10年以上はかかるといわれているので、忍耐強さも求められるでしょう。
厳しい世界に思えるかもしれませんが、この厳しさが相撲の特徴であり、代々守られてきた大切な伝統文化です。相撲が大好きでこの伝統文化を後世に伝えていきたい、という想いがあれば、行司として活躍できるでしょう。
また、行司の仕事には相撲部屋の秘書的な役割もあります。とくに地方を巡業するときには行き先の旅館や会場との調整が必要になるので、調整力や交渉力も求められます。ときにイレギュラーが発生することもあるので、とっさに適切な判断をする判断力も必要となるでしょう。
行司になるための方法とは?
行司になるには、大学や学部での勉強は不要です。19歳までに相撲部屋に入り、見習いとしてスタートするのが唯一の方法です。行司が運営する行司会や日本相撲協会に行司として推薦されるまで、相撲部屋の雑用をこなし日々勉強を重ねます。
行司に必要な資格や受験すべき試験
行司に必要な資格や試験はとくにありませんが、相撲部屋に入れるのは19歳までで、義務教育を修了していることが条件です。
相撲部屋に入ると3年間の養成期間があり、相撲部屋の雑用をこなしながら行司になるための教育を受けることになります。
行司になるために目指すべき就職先
行司の正式な身分は「財団法人 日本相撲協会」の会員です。一般的な就職とは異なりますが、日本相撲協会に所属することで行司になる道を目指すことができます。
そのために、まずは相撲部屋に入門します。入門すると「木村家」「式守家」のいずれかの行司名を名乗ることになります。
行司の定員は45名と決まっており、定員に空きがあれば新しく採用されるので狭き門といえるでしょう。
しかし一度行司として日本相撲協会に雇われることになれば、よほどのことがない限り定年の65歳まで勤めることができます。
行司や力士以外の角界の仕事
行司や力士になるのは難しいけれど、相撲にかかわる仕事がしたい!と思う人のために、角界にかかわる仕事と、そのために必要な勉強についてまとめました。
公益財団法人日本相撲協会に正社員・契約社員として就職
相撲の運営全般を担う、公益財団法人日本相撲協会に入職すれば、角界にかかわる仕事ができます。営業・広報・法務整理のほか本場所運営や相撲の普及に努める総合職や、本場所運営を裏で支える経理事務などは、新卒や第二新卒でも募集していることがあります。
必要な知識は就職してから学ぶことができますが、学生のうちに経営学部で経営について学んだり、簿記の勉強をしたりしておくと仕事にも役立つでしょう。
また、第三種電気主任技術者資格や電気工事士資格といった特殊な資格を持っていれば、両国国技館の施設管理の仕事に就くこともできます。
※第三種電気主任技術者資格
「電気主任者技術者試験」という国家資格。発電所や変電所、 工場やビルなどに設置されている電気設備の保守・監督をおこなうために必要な資格です。
※電気工事士資格
電気設備の工事・取扱いの際に必要な国家資格
両国国技館のアルバイトスタッフ
両国国技館は日本相撲協会が所有していますが、相撲の本場所の受付スタッフなどは外部の派遣会社に依頼していることがあります。
そこにアルバイトとして入れば、相撲を身近で感じることができるでしょう。最初は収入が低いですが、スタッフをとりまとめるディレクターレベルにまでなれば、給料が日給2〜3万円程になることもあります。
スポーツライター
角界専門のスポーツライターになって、相撲に密着した記事を書くのも良いでしょう。ライターになるのに必要な学科や学部はとくにありませんが、文学部のある大学を選んだり、相撲の歴史を学べる学科のある大学を選んだりすると役立ちます。
報道カメラマン
新聞社などに所属する報道カメラマンになれば、相撲のニュースで写真を撮る機会に恵まれる可能性があります。芸術・美術系の大学に進学して、写真について深く学んでおくと役立つでしょう。
報道カメラマンについてもっと知りたい人は、こちらの記事も読んでみてください。
カメラマンになるための方法|向いているのはどのような人?
行司を「JOB-BIKI」で検索しよう
行司は日本の伝統文化である相撲を支える仕事で、仕事内容や行司になるための方法も少し特殊です。相撲の裏方全般をサポートするため、下積み時代から勉強や雑務に励んだり、行司になってからも朝から晩まで動き回るなど、忙しい毎日が待っています。厳しい世界ではありますが、相撲が大好きで相撲の文化を守っていきたい、という人に向いている仕事といえるでしょう。
行司や力士にはなれないという人でも、角界に携わる仕事に就くことはできます。角界を裏から支えたいという人は「JOB-BIKI」で経営が学べる大学や文学部のある大学、芸術・美術系大学を検索してみましょう。うまく活用して、大好きな相撲の世界で働く夢を叶えてくださいね。