アクチュアリーとは?仕事内容や資格試験、目指せる大学の学部も紹介
2023.07.21
「アクチュアリー」という職種について、高校生の皆さんは、あまり聞いたことがないかもしれませんね。でも、保険料を支払ってもしもの時に備える「生命保険」のサービスなら知っている人も多いはず。アクチュアリーは、生命保険をはじめとした保険を成り立たせるための仕組みを、数学の理論を使って支えている専門家です。この記事では、アクチュアリーの仕事や、アクチュアリーになるための進路をご紹介します!
目次
アクチュアリーとは
アクチュアリーとは、数学を使って金融の世界で活躍する専門家です。主に確率や統計を駆使して、私たちの生活に関わる重要なリスクを分析します。
たとえば、保険料の設計や年金の運用計画を立てるのがアクチュアリーの仕事です。複雑な計算を行い、将来起こりうるさまざまな事態に備えます。
アクチュアリーが活躍する場所は、保険会社や銀行、官公庁やコンサルティング会社などです。数字を通じて社会の安定に貢献する、やりがいのある職業と言えるでしょう。
アクチュアリーになるには難関の資格試験はありますが、合格すれば高い専門性を認められ、安定したキャリアパスが開かれます。数学が得意な人にとって、アクチュアリーは魅力的な選択肢の一つかもしれません。
参考:公益社団法人 日本アクチュアリー会 | 内閣府男女共同参画局
アクチュアリーの仕事の内容
アクチュアリーは、高度な数学の理論(=数理)を使って、生命保険や損害保険の仕組みを作る専門家です。日本語では「保険数理人」とも呼ばれます。
そもそも生命保険や損害保険には、病気や事故によるリスクにお金の面で備える役割があります。これらの保険は、加入した人たちがみんなで公平に保険料を負担することで、病気や事故が起こった人に対してまとまった保険金が支払われる仕組みになっているのです。
そんな保険のサービスを提供するには、「加入した一人ひとりからいくらお金を集めれば良いのか」「どれくらいの人に病気や事故が起こる可能性があるのか」などを計算して、制度自体を作らなければなりません。そこで高度な数理を活用して制度を設計するのがアクチュアリーの仕事です!
アクチュアリーが働く場所
アクチュアリーの主な職場と仕事内容は、以下のとおりです。
働く場所 | 主な仕事内容 |
保険会社 (生命保険・損害保険) | 新しい保険商品の開発や適正な保険料の計算 |
信託銀行 | 企業年金の設計や運用 |
官公庁 (金融庁、厚生労働省など) | 保険や年金に関する政策立案や監督業務 |
コンサルティング会社 | 企業のリスク管理や財務戦略の相談に乗り、数学的視点からの分析と提言 |
監査法人 | 保険会社の財務状況を数理的に検証し、健全な経営を支援 |
アクチュアリーは、主に生命保険会社や損害保険会社など、保険を取り扱う民間企業で活躍しています。ほかにも、お客様の財産を預かって管理する信託銀行で、アクチュアリーが企業年金制度(=会社が従業員に対して提供する私的な年金のこと)に携わる場合もあります。さらに、官公庁などの公的な機関に勤めて、公的な年金制度に携わるアクチュアリーもいますよ。
これらの職場におけるアクチュアリーの就業割合は、おおよそ次のようになっています。生命保険会社が約45%と最も多く、次いで監査法人やコンサルティング会社が約31%を占めています。損害保険会社は約15%、信託銀行は約10%となっています。
参考:アクチュアリー – 職業詳細 | job tag(職業情報提供サイト(日本版O-NET))
アクチュアリーの仕事のやりがい
私たちが暮らす社会では、日々“もしも”の事態が発生しています。突然の病気や事故で高額な医療費が必要になったり、働けなくなってしまったりして、お金の問題に直面する可能性は誰にでもあるのです。アクチュアリーが設計に関わる生命保険や損害保険は、そんな“もしも”の事態に備えるために欠かせないもの。数学の専門知識を活かして、多くの人の安心に貢献している重要な職種です。
アクチュアリーの想定年収
令和5年度のアクチュアリーの年収は、全国平均で947.6万円です。日本の平均年収458万円と比べるとかなり高い水準です。詳しくは後ほど説明しますが、難易度の高い資格を取得してアクチュアリーになれる人は、ほんの一握りです。専門性が高く、報酬が高い職種の一つといえるでしょう。
【参考】職業情報提供サイト(日本版O-NET)
URL:https://shigoto.mhlw.go.jp/Occupation/Detail?occupationId=468
アクチュアリーの将来性
アクチュアリーの将来性について「やめとけ」「なくなる」といった声も聞かれますが、実際は異なります。確かにAIの進歩で一部業務は自動化される可能性がありますが、アクチュアリーの本質的価値は複雑なデータの解釈と説明能力にあるためです。
年金制度の設計や新商品の提案など、専門性の高い内容を分かりやすく伝える場面では、高度な数学知識とコミュニケーション能力の両方が求められます。この人間ならではの総合的なスキルは、AIが完全に代替することは難しいでしょう。
また、日本アクチュアリー会の調査によると、会員数は2016年から2024年の8年間で約15%増加しています。活動領域も保険会社からコンサルティングファームや金融機関へと拡大していることを考えると、アクチュアリーの需要は今後も高いと言えるでしょう。
参考:5分でわかるアクチュアリー | 公益社団法人 日本アクチュアリー会
アクチュアリーに向いている人の特徴
こんな素質がある人は、アクチュアリーに向いているかも!仕事の適性について解説します。
数学や統計学が得意で好きな人
アクチュアリーの仕事は、数学や統計学などの理系の分野に深く関わります。素早く正確に計算ができることはもちろん、保険制度を作る上であらゆるリスクを評価するためにも、データを分析して正確に情報を読み取る能力もなくてはなりません。
継続的に勉強できる人
アクチュアリーになるためには、後ほど解説する資格試験に合格しなければなりません。準会員になるまでに平均5年、正会員になるまでに平均8年という長い期間がかかります。長期間にわたり根気強く勉強できる人でなければ、そもそも資格を得るのは難しいといえます。
最新のテクノロジーに興味を持てる人
近年では、保険業界でAIやビッグデータを活用したリスクの予測が始まり、最新のテクノロジーが取り入れられるようになりました。保険制度の設計に関わるアクチュアリーは、自分の専門分野である数学や統計に限らず、最新のテクノロジーの動向にも関心を持って業界の変化に対応していく必要があります。
アクチュアリーになる方法
アクチュアリーを名乗って働くには、公益社団法人日本アクチュアリー会の正会員となる必要があります。正会員になるには、日本アクチュアリー会の資格試験に合格した上で、プロフェッショナリズム研修を受講することが必須です。
アクチュアリーの試験内容と難易度
アクチュアリーの資格試験には、基礎科目(5科目)の第1次試験と、専門科目(2科目)の第2次試験があります。それぞれ年1回しか実施されないため、合格までには最低2年の時間がかかります。
第1次試験の5科目全てに合格すると、第2次試験に進めます。第2次試験は生保コース(生保1・生保2)・損保コース(損保1・損保2)・年金コース(年金1・2)の3つのコースに分かれており、いずれか1つのコースを選択します。
【アクチュアリーの試験内容と合格率】
第1次試験(基礎知識を問われる)
試験科目 | 2023年度の合格率(%) |
数学 | 20.1 |
生保数理 | 35.6 |
損保数理 | 44.5 |
年金数理 | 15.3 |
会計・経済・投資理論 | 24.5 |
2023年度の第1次試験の平均合格率は、25.2%です。過去数年の平均を見ても20%前後で推移しています。
第2次試験(実務の専門知識や問題解決能力を問われる)
試験科目 | 2023年度の合格率(%) |
生保1 | 18.5 |
生保2 | 13.3 |
損保1 | 10.4 |
損保2 | 22.4 |
年金1 | 20.6 |
年金2 | 23.1 |
2023年度の第2 次試験の平均合格率は、18.05%です。過去数年の平均を見ても15%前後で推移しています。
参考:2023年度資格試験結果について|公益財団法人日本アクチュアリー会
なお、試験に合格するまでは「アクチュアリー候補生」という立場で企業が採用枠を用意していることがあります。合格を目指しながらアクチュアリーの業務を経験することもできますよ。
非常に難易度が高い試験に合格するためにも、大学・大学院で学びアクチュアリーに求められる知識や能力を養うことが重要です!
アクチュアリーになるためにおすすめの学部
アクチュアリーとして働くために、日本アクチュアリー会の資格試験合格を目指すなら、大学・大学院では数学や統計学を専攻するのが望ましいでしょう。受験する上で出身学部や学科に決まりはありませんが、非常に難易度が高い試験であることから、仕事に関連する進路を選ぶ人が多い傾向にあります。たとえば、理学部や理工学部の数学科や数理学科など、数学や統計学を学べる理系大学への進学を考えると良いでしょう。
【アクチュアリーを目指す人におすすめの大学】
- 明治大学 理工学部 数学科(神奈川県)
- 東海大学 理学部 情報数理学科(神奈川県)
- 同志社大学 理工学部・数理システム学科(京都府)
- 中部大学 理工学部 数理・物理サイエンス学科(愛知県)
大学の数学科や数理学科では、数学の基礎を身に付けるとともに、より高度な数学の理論を学んだり、数学を活用する能力を養ったりできます。
アクチュアリーのキャリアプラン
生命保険会社や損害保険会社でアクチュアリーとして一定の経験を積んだ後は、企業の保険数理の責任者である「保険計理人」の役割を任されることがあります。保険計理人になるには、日本アクチュアリー会の正会員であり、かつ決められた年数以上の保険数理の実務経験があることが要件です。それだけでなく、保険計理人は取締役会(=会社の重要なことを決める機関)で選び出される立場であるため、組織で信頼される人物であることも重要となります。
アクチュアリーになりたいあなたは「JOB-BIKI」で進路検索!
ここまで、アクチュアリーという職種について解説しました。アクチュアリーは保険や年金の制度を支える数学の理論の専門家です。アクチュアリーとして働くには、日本アクチュアリー会の正会員になることが必須。難易度の高い資格試験に合格するためにも、大学・大学院で数学を専攻できる進路を選びましょう。
進路を考え始めたら、まずは逆引き大学辞典の「JOB-BIKI」で調べてみてはいかがでしょうか?アクチュアリーの主な勤務先である生命保険会社を例に、大学の情報をチェックしてみましょう。その際は、検索画面の業種選択で「金融・保険」から「保険」を選択すると、保険会社で働く先輩たちの進路がわかります。アクチュアリーをはじめとした保険業界で活躍する職種を目指すなら、ぜひ逆引き大学辞典の「JOB-BIKI」をお役立てください!