海事代理士になるには?仕事内容や求められる資質と能力を紹介
2023.08.21
海や船が好きな高校生の中には、海事代理士の仕事が気になっている人もいるでしょう。海事代理士は海の法律家とも言われており、海で働く人のさまざまなサポートを行います。外国の船や珍しい船に乗る機会もあり、船好きには魅力的な職業と言えるでしょう。ただし、海事代理士の需要は高くなく、専業で働くのは非常に難しいため、しっかりとキャリアプランを見据えてから目指す必要があります。
この記事では、海事代理士の仕事内容や現実的な働き方、なるための方法を紹介します。海事代理士に求められる資質や能力についても解説するので、参考にしてくださいね。
目次
海事代理士とは?
海事代理士とは「海の法律家」とも呼ばれ、海に関係する法的手続きや相談業務がおもな仕事です。たとえば、船舶の登録やモーターボート・ヨットに乗る人の免許更新のサポートなどを行い、さまざまな書類作成を代行します。
海事代理士と同じく法律を扱う職業として、行政書士や司法書士があります。実は海に関連する手続きの一部は、行政書士や司法書士でも行えます。そのため、海事代理士を専業にしている人は少なく、行政書士や司法書士と兼業で活躍する人が多いです。
海事代理士と行政書士・司法書士の違い
海事代理士・行政書士・司法書士は、どれも法律を扱う仕事ですが、海事代理士は海に特化した法律のみを扱います。海に関連する手続きの一部について、それぞれの職域を以下の表にまとめました。
小型船舶の登録・名義変更など | 海上貨物関係の仕事に関わる各種手続き | 船舶のトン数測度 | 漁船関連 | 船員法に基づく船員の就業規則作成 | |
海事代理士 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
行政書士 | ○ | ○ | × | ○ | × |
司法書士 | ○ | × | × | × | × |
船舶の総トン数を算定する「船舶のトン数測度」や「船員法に基づく船員の就業規則作成」などは、海事代理士にしかできない独占業務です。逆に言うと、ほとんどの海関係の法律は行政書士や司法書士でも扱えるということです。海事代理士という職業はマイナーなため、多くのクライアントが認知率の高い行政書士や司法書士に依頼するというわけです。
海事代理士の仕事内容
海事代理士の仕事内容は多岐にわたりますが、おもな仕事として以下の4つを紹介します。
・船舶の登記
船を新しく造ったら、国に登録をしなくてはなりません。海事代理士は、船舶所有者や運航者が船舶の登記手続きを適切に行えるように支援します。具体的な業務としては、必要な書類の作成や提出、法的手続きの調整などがあります。
船舶の登記を行うことで、船舶の安全性や法的保護、国際的な運航が可能になるわけです。
・小型船舶操縦免許証の更新手続き
ヨットやモーターボートなどの小型船舶操縦免許証の更新手続きも、海事代理士の仕事です。具体的には、免許更新に必要な書類の作成や申請書の提出、手数料の支払いなどをサポートします。また、試験や研修の受講に関してもアドバイスをすることがあります。
・雇い入れ・雇い止め
船員を新たに雇う「雇い入れ」や、契約を更新せず雇用契約を修了させる「雇い止め」に関する手続きも海事代理士の仕事です。具体的には、届出に必要な書類や海員名簿、船員手帳の記入をサポートします。
ちなみに、令和4年の船員法改正に伴い、雇い入れ・雇い止め業務は、海事代理士のみが代理で行える独占業務になりました。
海事代理士の仕事のやりがい
海事代理士の仕事のやりがいには、以下のようなものが挙げられます。
- 船舶運航に貢献できる
- 貴重な体験ができる
- 国際的な環境で仕事ができる
海事代理士は、船舶所有者、船員、港湾当局、関税・税関などと連携し、スムーズな船舶運航を実現する仕事です。船舶のスケジュール調整や問題が解決した際には、クライアントから感謝され達成感を味わえるでしょう。
海事代理士の仕事はデスクワークが中心ですが、ときには港へ出向いて船の検査に立ち会うこともあります。ふつうに生活していれば乗る機会のない、外国の珍しい船や大きな船に乗るといった貴重な体験ができますよ。
船舶は国境を越えて運航されるため、海事代理士の仕事はグローバルに活躍できる仕事です。たとえば外国の船舶が日本の港に到着したり出発したりする際に、船舶所有者や船舶運航会社をサポートします。異文化間のコミュニケーションや国際法に対応する経験を通じて、やりがいを感じられるでしょう。
海事代理士の仕事の流れ
海事代理士の仕事の流れは、個人の職場や仕事内容によって異なりますが、ここでは海事事務所で働いた場合の一般的なスケジュールの例を紹介します。
時間 | 業務 | 詳しい業務内容 |
9:00 | 出社 | |
9:30 | 朝会議 | 同僚や上司と朝のミーティングを行い、業務の進捗状況を確認する |
10:30 | 顧客対応 | クライアントからの問い合わせ対応や、海事関連の法律相談を行う |
12:00 | 昼食休憩 | |
13:00 | 法律調査と文書作成 | 法律文書の作成、関連する法律や前例の調査を行う |
16:00 | 契約の作成と交渉 | 海事関連の契約書の作成や交渉を行う |
17:00 | 顧客とのコミュニケーション | クライアントと連絡を取り合い、進捗報告や相談を行う |
18:00 | 終業 |
船にまつわる複雑な手続きを代行するのが主な業務であるため、基本的にはデスクワークが中心です。ときには船の立会検査や運航検査のために、全国の港に出かけることもあります。
海事代理士の年収
海事代理士は行政書士や司法書士と兼業で行う人が多いため、年収は100~1,000万円と幅広いです。海事代理士を専業で行った場合の平均年収は以下のとおりです。
年代 | 平均年収 |
20代 | 約300~400万円 |
30代 | 約400~500万円 |
40代 | 約500~600万円 |
独立・開業している海事代理士の中には、年収1,000万円以上の人もいます。開業して活躍している海事代理士は、その地域のクライアントと強い信頼関係ができていたり、海事業界に深い人脈を築いていたりする場合が多いです。
海事代理士に必要な資質と能力
海事代理士にはどのような資質や能力が求められるのでしょうか。ここでは、海事代理士にとくに重要な資質・能力を押さえておきましょう。
・海や船への高い興味・関心
海事代理士の仕事は海や船に興味がある人に向いています。船舶の運航や関連手続きをサポートする仕事なので、海洋や航海に関心があることは重要です。船舶の登記や手続きは、専門的な知識が必要で複雑ですが、海好きな人であればストレスを感じず興味をもって仕事をすすめられるでしょう。
・高い事務処理能力
海事代理士の仕事は、書類や文書を正確に管理・処理する高い事務処理能力が求められます。
登記手続き・港湾手続き・税関手続きなど、船舶の運航や関連手続きは緻密で複雑だからです。
また、複数の船舶やクライアントを同時に取り扱うこともあるため、効率的なスケジュール管理やタイムリーな対応が必要なことも。高い事務処理能力は、スムーズな船舶運航と業務の成功に欠かせないスキルと言えます。
海事代理士になるための方法とは?
海事代理士になるには、具体的にどのようなルートがあるのでしょうか?海事代理士になるための方法について解説します。
海事代理士の世界の現状
近年は不況の影響を受け船舶をもつ人が少なくなっており、海事代理士の仕事も減少傾向にあります。前述のとおり、海事代理士の業務は行政書士・司法書士でも対応可能な部分が多いため、業務を独占しにくく、海事代理士1本で生計をたてている人は少ないのが現状です。
海事代理士になるための勉強ができる大学・学部
海事代理士になるためには「海事代理士国家試験」に合格する必要があります。受験資格に年齢や学歴の制限はないため、必ずしも大学を卒業する必要はありません。
しかし、試験では海に特化した法律の知識を問われるほか、一般的な法律の知識も求められます。これらは独学で習得するのは難しいため、法学部で知識を習得してから受験するのが現実的です。法学部では、法律に関する基礎知識をはじめ、海事法や国際法など海事代理士として必要な専門知識を習得できます。
また、以下のような大学に進学するのもおすすめです。海事分野や船舶についての知識を学べるため、海事代理士の資格取得や就職に有利になるでしょう。
- 北海道大学水産学部(北海道)
- 東京海洋大学(東京都)
- 東海大学海洋学部(静岡県)
- 神戸大学海洋政策科学部(兵庫県)
- 高知大学農林海洋科学部(高知県)
海事代理士の資格は国家資格であり、難易度も高いです。関連事項を学んでおくことで、試験対策もスムーズに行えますよ。
海事代理士に必要な資格や受験すべき試験
前述のとおり、海事代理士として働くには「海事代理士国家試験」に合格する必要があります。
試験は筆記試験と口述試験があり、令和4年度の合格率は以下のとおりです。
受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
筆記試験 | 361 | 199 | 55.1% |
口述試験 | 197 | 194 | 98.5% |
司法書士の合格率が3%、行政書士の合格率が10%~20%なので、法律系の国家試験の中で考えると難易度は低めです。
ただし、合格率が高いからといって試験が簡単なわけではありません。海事代理士の試験を受ける人のほとんどは、行政書士や司法書士の試験に合格した人です。つまりある程度法律の知識が身についた人が受験しているので、合格率が高いのです。
海事代理士になるために目指すべき就職先
海事代理士の就職先は以下のとおりです。
- 海事代理士事務所
- 法律事務所
- 行政書士事務所
- 司法書士事務所
- 船舶関連の一般企業
就職先の多くが、海事代理業務を兼ねた法律系の事務所になります。海事代理士事務所は、大きな港がある場所に事務所を構えている場合が多いので、海好きの人にはうれしい条件です。東京や大阪、福岡など主要都市、神戸や横浜などの港湾都市に勤務することになるでしょう。
海事代理士になった後のキャリアプラン
海事代理士になった後のキャリアプランには、以下の3つが考えられます。
・法律系の事務所で兼業する
海事代理士の需要はそれほど高くないため、専業でやっていくのは難しいと言われています。受験者のほとんどは、すでに行政書士や司法書士の資格を取得しており、仕事の幅を広げるために受験します。これから海事代理士になりたいと考えている高校生のみなさんは、まず行政書士や司法書士に合格してから、海事代理士の資格を取得することをおすすめします。そして、各種法律事務所で働きながら海事代理士も兼業するのが現実的です。
・副業として行う
海事代理士は、行政書士や司法書士と兼業する人が多いとお伝えしましたが、行政書士や司法書士は非常に難易度の高い国家資格で、合格するのが大変です。
「海事代理士にはなりたいけど、法律系の事務所で働くつもりはない」という人は、船に乗る仕事や船関係の会社につとめつつ、副業で海事代理士をするのもいいですね。
・独立して起業する
海事代理士として年収1,000万円以上を目指す人は、独立して起業する道があります。ただし、起業して成功するには、その地域のクライアントと強い信頼関係にあることや、海事業界に深い人脈があることが前提条件になります。リスクを分散させるためにもやはり行政書士や司法書士の資格も取っておきたいところです。
(まとめ)海事代理士を「JOB-BIKI」で検索しよう
海事代理士は、海の法律家として海で働く人をサポートするやりがいのある仕事です。外国の船や普段乗ることのない大きな船に乗る経験などができるため、海や船が好きな人には魅力的な仕事でしょう。ただし、海事代理士のみで生活していくのは厳しく、独立して成功している人は少ないのが現状です。
ほとんどの場合は、行政書士や司法書士との兼業であり、まれに一般企業に勤めながら副業で海事代理士をする人もいる程度です。
海事代理士を目指す場合は、キャリアプランを見据えたうえで資格取得するのが賢明です。
海事代理士になるためにどのような大学を選べばいいのか迷っている方は「JOB-BIKI」を活用してみてください。海事代理士として働く方法をいくつか紹介しましたが、1番現実的なのは法律事務所に就職することでしょう。「JOB-BIKI」の就職先検索で「法律事務所」と検索すると、海事代理士として活躍している先輩たちの出身大学を調べられます。ぜひ、進路選びの参考にしてくださいね。