最短4年で精神保健福祉士になるには?目指せる通信制大学も紹介
2023.09.06

「精神保健福祉士になるには、どういった進路を選べばいいのだろう?」「通信制大学でも受験資格を得られるの?」と疑問に思っている人もいるでしょう。
実は精神保健福祉士への道は、大学や専門学校、通信教育など多様な選択肢があります。自分の状況に最適な進路を選ぶことで、効率的に資格を取得できます。
この記事を読めば、精神保健福祉士を目指せる最適な進路選択と資格取得までの期間が分かります。
目次
精神保健福祉士とは?
精神保健福祉士は、1997年に誕生した精神保健福祉分野で活動するソーシャルワーカーの国家資格です。ソーシャルワーカーとは「生活相談員」のことで、問題や悩みを抱えている人の支援を行う人を指します。ソーシャルワーカーの仕事について詳しく知りたい人は、以下の記事も読んでみてください。
ソーシャルワーカー(社会福祉士)になるには?|年収、やりがい、資格や大学や学部など解説
精神保健福祉士は、精神に障害を持つ人の自立と社会参加を援助する仕事です。ストレス社会と言われる現代では、病院だけでなく、企業や学校などの幅広い現場で精神保健福祉士の活躍が期待されています。
精神保健福祉士と社会福祉士の違い
精神保健福祉士と同じく福祉分野の職業に「社会福祉士」があります。どちらも日常生活に困っている人の相談業務が主な仕事ですが、大きな違いは「相談対象者」が異なる点です。
職業 | 相談対象者 |
社会福祉士 | ・高齢者 ・障害者 ・児童 ・低所得者 |
精神保健福祉士 | ・精神障害のある方 |
社会福祉士は日常生活に支障のある人を幅広く支援するのに対し、精神保健福祉士は、精神に障害を抱えた人をメインに支援するのが特徴です。どちらになろうか迷っている人は、まずは福祉職の基幹資格である社会福祉士の資格から取得するのも良いでしょう。
社会福祉士の資格を取得している人が精神保健福祉士の試験を受ける場合、試験科目が一部免除になります。
ソーシャルワーカー(社会福祉士)になるには?|年収、やりがい、資格や大学や学部など解説
精神保健福祉士になるには?

精神保健福祉士になるには「精神保健福祉士国家試験」に合格する必要があります。
まずは国家試験を受験するための資格を得る必要があります。受験資格を取得する主なルートは、以下の図のとおりです。

参考:メンタルヘルスの支援者 精神保健福祉士|チーム医療推進協議会
図のとおり、精神保健福祉士になるルートは大きく分けて以下の3つです。
- 保健福祉系大学等(指定科目の履修ができる)のルート
- 短期養成施設ルート
- 一般養成施設ルート
最短で精神保健福祉士になるには、保健福祉系の大学や短大、専門学校で指定科目を履修し、卒業後に国家試験に合格するルートです。このルートなら4年で精神保健福祉士になることができます。
それぞれのルートについて詳しく解説します。
保健福祉系大学等(指定科目の履修ができる)のルート

最短4年で精神保健福祉士になれるルートです。このルートは、指定科目の履修ができる保健福祉系の4年制大学か短大、専門学校からスタートします。
4年制大学の場合は、指定科目を履修して卒業すれば、国家試験の受験資格を得られます。
短大や専門学校の場合は、卒業後に相談援助の実務経験を積んで受験資格を得る必要あります。相談援助の実務経験とは、どういった場所で何をすることなのか、次の章で解説します。
相談援助実務経験とは?
相談援助実務経験とは、精神保健福祉士の受験資格を得るために必要な実践経験のことです。精神科病院や福祉施設、地域の相談支援センター、学校などで、カウンセリングや生活指導、職業訓練のサポートといった支援業務を行います。
ただし、この実務経験として認められるには、勤務時間の半分以上を相談・支援業務に携わることが条件です。食事介助などの看護業務は実務経験としては認められません。
参考:精神保健福祉士国家試験 相談援助業務(実務経験)|公益財団法人 社会福祉振興・試験センター
短期養成施設ルート

基礎科目の履修ができる保健福祉系の大学か短大、専門学校からスタートするルートです。
大学の場合は、卒業後に短期養成施設で6ヶ月以上学ぶと国家試験の受験資格が得られます。短期養成施設とは、福祉系の基礎科目をすでに修得している人が、精神保健福祉士として必要な専門知識を学ぶための教育機関です。
短大や専門学校の場合は、卒業後に相談援助実務経験を経てから短期養成施設で6ヶ月以上学び、国家試験の受験資格を得ます。このルートの場合、最短4年半で精神保健福祉士になれます。
一般養成施設ルート

福祉系以外の大学や短大からスタートするルートです。
大学の場合は、卒業後に一般養成施設で1年以上学ぶことで、受験資格を得られます。短大の場合は、相談援助実務経験を1~2年経験したあとに、一般養成施設で1年以上学ぶことで受験資格を得られます。このルートの場合、精神保健福祉士になるには最短5年の年月が必要です。
このルートなら、保健福祉系の学校を卒業していなくても、精神保健福祉士を目指せます。福祉系以外大学や短大を卒業している社会人や看護師が精神保健福祉士を目指す場合、このルートが最短になるでしょう。
精神保健福祉士になるための勉強ができる大学・学部
ここでは、精神保健福祉士の指定科目を履修できる大学を紹介します。
このルートの場合、必要な科目を履修して卒業すれば、実務経験を積まずとも最短4年で国家試験の受験資格を得られます。
実は、精神保健福祉士の指定科目が履修できる大学は、通学制と通信制があります。それぞれ紹介します。
【通学制大学の一例】
- 東京福祉大学 社会福祉学部 社会福祉学科(東京)
- 聖学院大学 心理福祉学部 心理福祉学科(埼玉県)
- 神戸女学院大学 心理学部 心理学科(兵庫県)
- 川崎医療福祉大学 医療福祉学部 医療福祉学科(岡山県)
- 京都ノートルダム女子大学 現代人間学部 心理学科(京都府)
- 日本福祉大学 社会福祉学部 社会福祉学科(愛知県)
- 熊本学園大学 社会福祉学部 社会福祉学科(熊本県)
【通信制大学の一例】
- 東京通信大学 人間福祉学部 人間福祉学科(精神保健福祉コース)(東京都)
- 聖徳大学 心理・福祉学部 社会福祉学科(精神保健福祉コース)(千葉県)
- 中部学院大学 人間福祉学部 人間福祉学科(岐阜県)
- 日本福祉大学 福祉経営学部 医療・福祉マネジメント学科(愛知県)
通信制大学の概要について知りたい人は、以下の記事も参考にしてみてください。
通信制大学とは?おすすめの大学や学費、取得できる資格、選び方を解説
精神保健福祉士の養成施設には通学制と通信制がある

大学や短大、専門学校で指定科目を履修した人以外は、卒業後に精神保健福祉士の養成施設で1~2年学び、受験資格を得ます。
養成施設には、通学制と通信制があります。令和6年度4月時点で登録されている養成施設は、以下より確認できます。
精神保健福祉士国家試験|公益財団法人 社会福祉振興・試験センター
精神保健福祉士になるために目指すべき就職先
精神保健福祉士の就職先には、以下のような場所があります。
- 精神科医療機関(精神科病院・精神科診療所)
- 行政機関(精神保健福祉センター・保健所・市町村)
- 司法分野(保護観察所・刑務所・少年院)
- 教育機関(小学校・中学校・高校)
- 労働行政(ハローワーク・障害者職業センター)
- 産業分野(企業の健康相談室)
このように、精神保健福祉士は精神医療機関や行政機関だけではなく、さまざまな現場で活躍しています。今後もますます職域の拡大が予想されます。
【職場別】精神保健福祉士の仕事内容

精神保健福祉士の仕事内容は、勤務先によって大きく異なります。ここでは、以下3つの職場について解説します。
精神科病院での仕事
精神病院で働く精神保健福祉士の仕事内容は、以下のとおりです。
- 受診や入院にあたって、患者さんやその家族の不安や悩みを聞く
- 医師の診断に必要な情報を患者さんからヒアリングする
- 入院にあたっての学校や職場との調整
- 医療費の相談に応じる
- 入院中の相談業務
- 退院時にあたっての学校や職場との調整
- 退院患者の家庭訪問
入院から退院、退院後まで、患者さんやその家族が安心して暮らせるようサポートを行います。
精神保健福祉センターでの仕事
精神保健福祉センターは、すべての都道府県と政令指定都市に設置されており、約8割の施設で精神保健福祉士が配置されています。具体的には以下のような心の健康課題を扱い、相談援助を行います。
- 思春期
- アルコール依存症
- 認知症
- うつ病
国民の心のケアを幅広く扱うほか、福祉に関する知識の普及や心の健康づくり推進事業なども行います。
教育機関での仕事
小中学校の精神保健福祉士は、不登校やいじめなどの問題を抱えた子どもたちと関わります。また、家庭や地域と連携しネットワークを作ることで、地域ぐるみで支援に取り組んでいます。
スクールカウンセラーが生徒本人の心の問題をメインに扱うのに対し、精神保健福祉士は、生徒を取り巻く環境にも働きかけるのが特徴です。
精神保健福祉士の仕事のやりがい
精神保健福祉士の仕事のやりがいには、以下のようなものが挙げられます。
・本当につらい人の支えになれる
ストレス社会と言われる現代では、心の病を抱えた人が年々増えています。精神保健福祉士は、精神疾患を抱えた人々をサポートすることで、辛い人の味方になれる仕事です。
・社会復帰を手伝える
精神疾患で入院している人の約3分の1は、入院期間が10年以上と長期にわたります。病院外での生活から遠ざかっているため、退院しても社会復帰がスムーズにいかないことも多いようです。精神保健福祉士は、こういった人たちの社会復帰を手伝えるやりがいのある仕事です。
たとえば、掃除や洗濯などの生活習慣が身につくよう指導したり、挨拶の練習や公共交通機関に慣れてもらうよう訓練したりします。また、精神疾患に配慮しながら就職先について提案や誘導も行います。
・いろいろな人生を見ることで視野が広がる
人間の本質や人生について考える機会が多いのも、精神保健福祉士のやりがいの1つです。精神疾患を抱えた人には、いろいろな背景や悩みがあります。ときには、辛い現実を知ってショックを受けることもあるでしょうが、さまざまな事例を見ることで視野が広がり、思いやりの心をもった人間になれるでしょう。
精神保健福祉士の仕事の流れ

精神保健福祉士の仕事の流れは、勤務先によって異なります。ここでは、精神科病院で働いた場合の1日のスケジュール例を紹介します。
時間 | 業務 | 詳しい業務内容 |
8:30 | 出勤 | |
9:00 | 担当病棟・相談室での朝礼 | ・前日からの申し送りや注意事項を共有し、スケジュールの確認を行う |
9:30 | 利用者の出迎え | ・デイケア利用者や入院予定者の出迎え ・オリエンテーション |
10:00 | 病棟勤務 | ・患者さんとの面談や交流 ・プログラムの実施 |
12:00 | 昼食休憩 | |
13:00 | 病棟勤務 | ・午前の仕事の続き ・看護師と共に退院前の指導を行ったり、他専門職とのカンファレンスに参加したりすることもある |
16:00 | デスクワーク | ・記録 ・患者さんの家族や行政機関への連絡 ・打合せ ・明日への申し送り |
17:30 | 退勤 |
精神保健福祉士の年収
厚生労働省が令和3年度に公表した「社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士就労状況調査結果」によると、精神保健福祉士の平均年収は、男性が463万円、女性は377万円で、平均すると404万円になります。
精神福祉士の年収は勤務先によって大きく異なります。ここでは、おもな勤務先別に年収をまとめたので、参考にしてみてください。
勤務先の分野 | 具体的な勤務先 | 平均年収 |
精神科医療機関 | ・精神科病院 ・医療機関併設の精神科デイ・ケア ・医療機関併設の介護老人保健施設 | 約380万円~430万円 |
行政機関 | ・精神保健福祉センター ・保健所 ・市町村 | 約420万円 |
教育機関 | ・学校 | 約465万円 |
医療機関の場合は、その施設を運営している法人の給与体系によるため、年収にも幅がでるようです。行政機関の場合は公務員になるため、その地域の公務員の給与体系によって年収が決まります。
教育機関は、雇用される教育委員会や学校の給与体系のほか、雇用形態によっても年収が変わるため、常勤か非常勤かなども確認しておく必要があります。
精神保健福祉士に必要な資質と能力
精神保健福祉士にはどのような資質や能力が求められるのでしょうか。ここでは、精神保健福祉士にとくに重要な資質・能力を押さえておきましょう。
・人を尊重し共感できる心
精神保健福祉士になる人は、人権感覚を持つことが非常に大切です。「障害のある人が偏見や差別などにより、不当な扱いを受けていないか」といったことを日頃からよく考える人は資質があると言えます。
また、心の健康問題を抱えた人々に寄り添う心も必要なので、状況や立場の違う人を理解し受け入れることが求められます。「人に共感しやすい」という人も向いています。
・忍耐強さと冷静に判断する力
精神保健福祉士は人に共感する心が大事ですが、相談者に共感しすぎて自分が辛くなってしまうと、客観的な判断ができなくなります。そのため、相手に共感しつつも一線を引き、冷静に物事を判断することが求められます。
また、支援は長期間にわたることも多く、なかなか状況が好転しないこともあるため、忍耐強く課題解決に取り組む姿勢が必要です。
・想像・創造する力
精神保健福祉士は相談者の話をよく聞き、置かれている状況や辛さを想像する力が必要です。相談者に寄り添うには、相手の目線に立つことから始まるからです。また、相談者をサポートしていくためには「こう動くとこうなる」という創造力も必要です。創造力は先を見通す力なので、一朝一夕で身につくものではありません。社会福祉に関する知識やスキルを学びつつ、現場で経験を積む必要があります。
精神保健福祉士の将来性
精神保健福祉士は、今後ますます需要が高まる有望な国家資格といえます。従来は病院での支援が中心でしたが、現在は地域社会での生活支援へと役割が広がっています。
学校でのいじめ対策や企業のメンタルヘルスケアなど、活躍の場は多岐にわたります。また、高齢化に伴う認知症患者の増加も、需要を押し上げる要因となっています。
現在、精神保健福祉士の登録者数は約9万人で、社会福祉士(約25万人)や介護福祉士(約170万人)と比べるとまだ少数です。年間3000人以上の増加ペースながら、需要の伸びに追いついていない状況です。
さらに、この職種は人との深い関わりが必要なため、AI化の影響も受けにくいといえます。以上の点から、精神保健福祉士は将来性の高い資格だと言えるでしょう。
精神保健福祉士になった後のキャリアプラン

長く病院や施設で働く精神保健福祉士の中には、病院の事務長や施設長になる人もいます。また、開業独立する人や経験を活かして教員になる人もいるようです。
保健所や市町村などの自治体に勤める精神保健福祉士は、年数を重ねて管理職になる場合もあります。
精神保健福祉士になりたい人のよくある質問
社会人、看護師、社会福祉士から精神保健福祉士を目指す場合は、どういうルートを辿ればいいのでしょうか?
それぞれ解説します。
なお、どのルートも養成施設で学ぶ必要があります。養成施設の一覧は、以下より確認できるので気になる方は併せてチェックしてみてください。
精神保健福祉士国家試験|公益財団法人 社会福祉振興・試験センター
社会人から精神保健福祉士になるには?
社会人から精神保健福祉士を目指すルートは、最終学歴によって異なります。
詳しくは記事前半の「精神保健福祉士になるには?」の見出しで解説しています。
ここでは、保健福祉系の学校を卒業していない人が精神保健福祉士を目指すルートを紹介します。
福祉以外の一般の大学を卒業している場合は、精神保健福祉士の一般養成施設で1年以上学べば試験資格を得られます。福祉以外の短大を卒業している場合は、相談援助の実務経験を1~2年経験したのち、一般養成施設で1年以上学べば試験資格を得られます。
看護師から精神保健福祉士になるには?
看護師から精神保健福祉士になるルートは最終学歴によって異なります。
4年制の看護大学を卒業している場合は、一般養成施設で1年以上学ぶと試験資格を得ることができます。
看護系の短大などを卒業している場合は、1~2年の相談援助の実務経験を経たのち、一般養成施設で1年以上学ぶと試験資格を得ることができます。
社会福祉士が精神保健福祉士になるには?
すでに社会福祉士の資格を取得している場合は、短期養成施設で6カ月以上学ぶと試験資格を得られます。
令和3年度に厚生労働省が発表した「精神保健福祉士の配置状況によると、精神保健福祉士の60.9%が社会福祉士の資格も取得しており、ダブルライセンスで働く人が多いようです。
精神保健福祉士になるのは難しい?
厚生労働省によると、精神保健福祉士国家試験の令和6年度の合格率は70.4%で、同年の社会福祉士の合格率は58.1%です。精神保健福祉士のほうが合格率は高くなっています。
近年の合格率は上昇傾向にあり、特に2023年以降は70%を超える高い水準を維持しています。ただし、受験には指定された教育機関での学習が必要なため、しっかりとした準備と対策が合格への鍵となります。
精神保健福祉士を「JOB-BIKI」で検索しよう
精神保健福祉士は、精神障害者の生活や権利を守る仕事です。人をサポートするのが好きな人や社会貢献に魅力を感じる人は、やりがいを感じられるでしょう。ストレス社会と言われる現代では、今後ますます需要が高まる職業であり、活躍の場が広がると予想されます。
精神保健福祉士になるためにどのような大学を選べばいいのか迷っている方は「JOB-BIKI」を活用してみてください。「JOB-BIKI」の人物検索で「精神保健福祉士」と検索すると、精神保健福祉として活躍している人たちの出身大学がわかります。ぜひ、進路選びの参考にしてくださいね。