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調香師になるには?仕事内容や資格、大学と学部の選び方についても解説

2022.09.09

カテゴリー:
香りをたしかめる調香師

私たちは五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)を通じて、世界にあるさまざまなものを体感しています。その中でも、においや香りを感じる「嗅覚」が、敏感なほうだと自認している人もいるのではないでしょうか?
化粧品や食品など、皆さんが日常生活で手にしている商品の中には、人工的に香りがつけられた物が多くあります。その香りを生み出す専門家として活躍しているのが、この記事で紹介する「調香師」なのです。
この記事では、調香師の仕事内容や仕事の流れ、必要な資質と能力のほか、調香師になるための進路について解説します!

調香師とは?

調香師は「香り」を作り出す専門家です。世界に6,000種類もあるとされている香料を組み合わせ、人を魅了する香りを生み出します。

例えば、チョコレートやキャンディなどのお菓子。「ミント風味」「メロン風味」など、いろいろな味が販売されていますが、お菓子の包み紙を開けた瞬間、おいしそうな香りが漂ってきますよね?
これは、本物の植物や果物の香りと似ていますが、実は人工的に作られた香り。こうした香りは、調香師の仕事の成果なのです。

調香師は食品のほか、化粧品などの香りを作り出す仕事にも携わっています。香りという目に見えない感覚を生み出すには、香りのベースとなる化学物質の知識や鋭い嗅覚が欠かせません。調香師はこうした能力を兼ね備え、香りのプロフェッショナルとして活躍しているんですね!

調香師の仕事内容

香りをチェックする調香師

 
調香師の仕事には、大きく分けて「フレーバリスト」と「パフューマー」の2種類があります。
フレーバリストとは、食品や飲料、お酒、歯みがき粉といった口に入る物の香りを調合します。フレーバリストは、安全性を考慮して研究・開発していく必要があります。どんなに良い香りだったとしても、摂取した人に健康面の被害が出てしまうようなことがあってはならないからです。

一方のパフューマーは、化粧品や入浴剤、洗剤など、飲食物ではない物の香りを調合するのが仕事。芳香剤や香水だけでなく、石鹸やシャンプーなどにも香料が使われています。
人が口から摂取しないとはいえ、人の肌に直接ふれる製品も数多くありますよね。パフューマーも安全性に最大限配慮した研究・開発をしています。

日本では、現状パフューマーの数は少なく、フレーバリストとして活躍している人のほうが多いようです。

調香師の仕事のやりがい

人の嗅覚には未解明な点も多く残されているため、調香師の仕事は試行錯誤の連続です。また、香りの感じ方は人それぞれで、大きく異なることも。つまり、調香師の仕事に絶対的な正解はなく、研究を重ねた上で、できるだけ多くの人に受け入れられる香りを作り出す必要があります。

だからこそ、自分が作り出した香りが多くの人に受け入れられ、「これは良い香り!」「心地良い香りだ」と評価してもらえることは、調香師としてこの上ないほめ言葉といえるでしょう。調香師が作り出した香りが商品のアピールポイントとなり、大ヒットするケースも珍しくありません。自分が生み出した香りによって世の中に大きな影響を与えられるというのは、とてもやりがいのある仕事ですね!

調香師の仕事の流れ

食品メーカーや化粧品メーカーの研究職として勤務していることが多い調香師。続いては、食品メーカーの研究開発部門における調香師を例に挙げ、仕事の基本的な流れを解説します。

1. 香りのコンセプトの打ち合わせ

食品メーカーで開発するお菓子の商品企画では、ターゲット、競合商品にはない強みなどを決定します。そこで決まった企画が「メロンの風味がウリのチョコレート」だとすると、まずは商品コンセプトに合う香りを生み出すにはどうするべきか、調査を開始します。

2. 成分分析

目的とする香りを生み出すには、どのような成分が必要なのかを分析します。例えば、メロンの香りを作り出したくても、本物のメロンを乾燥させただけでは良い香りにはなりません。メロンの香りの成分を分析し、メロン以外のさまざまな香料を組み合わせて、メロンの香りを再現する必要があります。成分分析は目的の香りを生み出す上で、欠かせないプロセスなのです。

3. 調合

成分分析の結果、最適と考えられる香料を調合します。調合した結果、最初からベストな香りが生み出せるとはまずありません。コンセプトに合った香りを生み出すために、試行錯誤を重ねる必要があります。こうして作り出した試作品の成分を商品開発部門へと伝え、商品化に向けて話を進めます。

4. プレゼンテーション

試作品のお披露目では、社内向けにプレゼンテーションを実施することもあります。プレゼンテーションは研究成果を知ってもらうための機会でもあるため、しっかりと専門家ではない社員に向けて説明する資料を整えて臨みます。研究の合間を縫ってプレゼン資料を作成し、研究成果を承認してもらうのです。

5. 報告書作成

研究成果やプレゼンテーションの結果を、報告書にまとめるのも調香師の大切な仕事。調香師はあくまでも研究職であり、きちんとした報告書を提出することで携わった仕事を評価してもらうのです。最終報告書のほか、途中経過を伝える際に報告書を作成することも。

調香師の年収

厚生労働省の職業情報提供サイトによると、調香師の平均年収は約580万円です。

年齢別の平均年収は、以下の通りです。

引用:調香師 – 職業詳細 | job tag(職業情報提供サイト(日本版O-NET)) (mhlw.go.jp)

理系学部の大学院での学びを修めた人が就く研究職のため、同じ企業に勤務する大卒総合職よりも初任給は高い傾向があります。また、多くのメーカーは大手企業のため、福利厚生などの待遇面でも充実しているケースが多いでしょう。

調香師に必要な資質と能力

香りをたしかめる調香師

 
調香師になるには、どのような資質や能力が求められるのでしょうか。特に重要な資質と能力を押さえておきましょう。

敏感な嗅覚

香りを扱う仕事である以上、研ぎ澄まされた嗅覚を持っていることは必須条件といえるでしょう。実務では、微妙な香りの違いを嗅ぎ分ける必要があり、鼻がきく人でなければ務まらない仕事です。複数の香料が混ざり合った香りを嗅ぎ、成分を言い当てる訓練が実施されることも。嗅覚は訓練によって向上する面もありますが、そもそも香りに敏感であることは欠かせない資質といえます。

嗅覚には、「香りに関する記憶力」も含まれます。過去に嗅いだ香りをもとに香料を組み合わせていくケースも多く、「いつどの場面でどんな香りを嗅いだか」を記憶している必要があります。さらに、自身が作った香りを客観的に評価できる能力も必要です。

流行に敏感なセンス

香水に代表されるように、香りにも流行があります。強すぎる香りは敬遠されることが多いですが、強い香りの香水が流行した時代もありました。また、時代により甘いフローラル系の香りが好まれることもあれば、爽やかなシトラス系の香りが好まれることもあるでしょう。その時代の流行の香りをキャッチするセンスが、調香師には求められます。

化学の知識

香りは嗅覚だけで判断するものではなく、化学の知識もフル活用します。香りを生み出す成分が人の嗅覚細胞にどのような影響を与え、どう知覚されるのかを熟知している必要があり、異なる成分を掛け合わせることで香りがどう変化するのか、混ぜ合わせる比率によって香りにどう影響するのかを把握している必要があります。また、香りのもととなる成分について豊富な知識を備えていたり、安全性への配慮のため、薬学や生物学の知識も必要となったりします。
こうした専門知識を持ち合わせているからこそ、狙いどおりの香りを生み出す専門家として活躍できるのです。

自己管理能力

ワインの香りや味を熟知しているワイン選びの専門職・ソムリエは、日々の体調管理に気を使っています。味覚や嗅覚は、健康状態に大きく左右されることを知っているからです。そのためには亜鉛を摂取したり、味の濃いものを控えたりするなどの努力を欠かしません。
それは、調香師も同じこと。重要な嗅覚の維持のため、常にベストコンディションでいられるよう日々努力を積み重ねています。たばこやアルコールなどの刺激物はできるだけ控え、花粉症や風邪などに対して予防するような自己管理能力がとても重要なのです。

調香師に必要な資格や受験すべき試験

調香師になるために必須の資格や免許はありませんが、以下の資格や検定を取得すれば、就職時にアピールできます。

  • 日本調香技術師検定
  • 香水ソムリエ
  • フレグランスセールス スペシャリスト
  • 臭気判定士
  • アロマテラピー検定

順番に解説します。

日本調香技術師検定

日本調香技術士検定は、調香や香料の知識を判定する検定です。

詳細を以下の表にまとめました。

受験資格誰でも受験可能(性別・年齢・学歴問わず)
受験コース・フレーバーコース(1級~3級) ・フレグランスコース(1級~3級)
試験内容筆記試験(30点)+実技試験(70点)の合計100点
合格基準70点以上

現場で活かせる実践的な内容も含まれるため、ぜひとっておきたい検定です。なお、合格率は発表されていません。

参考:調香技術師の資格、検定|一般社団法人日本調香技術師検定協会 (jffa.or.jp)

香水ソムリエ

香水ソムリエは、お客さんの希望を的確にヒアリングし、適切な香りを選び提供できることを証明する資格です。

香水ソムリエは、2021年までパルファンサトリの通信講座で取得可能でしたが、現在は新規募集をしていないようです。代替え資格としては、日本フレグランス協会の「フレグランスセールス スペシャリスト」が挙げられます。
講座を受講後、試験に合格された方には、「フレグランスセールス スペシャリスト」の資格証とバッジが授与されます。

なお、こちらも2023年度の講座申込みは終了しています。気になる方は、随時以下の公式ホームページを確認してみてください。

フレグランスセールス スペシャリスト トレーニングスクールと資格認定 – 日本フレグランス協会 (japanfragrance.org)

臭気判定士

臭気判定士は、香りに関する資格のなかで唯一の国家資格です。

臭気判定士とは、世の中にあるニオイの困りごとを解決する仕事です。たとえば、購入した商品や工場からの異臭などがした場合、原因特定のため、ニオイの質や程度を確認する必要があります。その際、十分な調査を行うため、機械と臭気判定士による測定を行うのです。

臭気判定士は18歳以上なら誰でも受験できます。試験内容は、臭気判定士試験(筆記試験)と嗅覚検査の2つです。臭気検査は嗅覚が正常であることを確認する検査なので、合格率は90%と高めですが、筆記試験の合格率は2割程度と低いので、難関視覚と言えるでしょう。

参考:国家資格「臭気判定士」 | JAOE (orea.or.jp)

アロマテラピー検定

アロマテラピー検定も香りの試験のひとつです。
アロマテラピー検定は、年齢・性別・学歴などは関係なく、誰でも受けられます。

1級と2級があり、検定内容は筆記試験と実技試験があります。実技試験では、実際の精油の香りを嗅いで、それがどの精油かを正確に識別する能力が問われます。
合格率は約90%と高いので、なにか香りの資格を取得してみようという人も、はじめやすいと言えるでしょう。

参考:(公社) 日本アロマ環境協会 | 検定・資格 | アロマテラピー検定 (aromakankyo.or.jp)

調香師になるための方法とは?

調香師を目指す女性

 
調香師になるためには、具体的にどのような進路を選択すれば良いのでしょうか。調香師を目指す人のための進学先や就職先について、調香師の世界の現状と併せて見ていきましょう。

調香師の世界の現状

現状、日本で調香師が活躍しているのは、食品メーカーや化粧品メーカーなどの研究開発職です。特に、食品や飲料には多種多様な香料が使用されていることから、フレーバリストとして活躍する調香師は多くいます。食品や飲料の需要が急に減るとは考えにくいため、調香師の需要が衰えることはまずないでしょう。

ただし、調香師という職業そのものは、採用数が少ないのが実情です。高い需要があるとはいえ、調香師になるまでの道のりは決して平坦ではありません。

調香師になるための勉強ができる大学・学部

調香師の主な就職先がメーカー系の研究開発部門であることを踏まえると、有機化学や分析化学を学んだほうがいいでしょう。理系学部のある大学で下記のような学問分野を専攻するのが現実的です。

<調香師になるための勉強ができる学部>
・理工学部
・薬学部
・農学部

なお、日本フレーバー・フレグランス学院(東京都千代田区)のように、調香師の育成を目的とした専門の学校もあります。こうした専門校で調香師になるための知識や技術を身につけていくことも、調香師を目指すためのひとつの方法でしょう。
ちなみに、有名な調香師というとパフューマーが多いのですが、彼らの出身校は下記のとおりです。こちらも参考にしてみてくださいね。

<有名な調香師の出身校>
・石坂将(学習院大学、英国Lancaster大学大学院)
・大沢さとり(成蹊大学)
・新間美也(京都外国語大学)
・田代はなよ(名古屋大学)
※50音順・敬称略

調香師になるために目指すべき就職先

香りが重要視される商品を扱う企業に就職すると、調香師を目指すチャンスを得られます。採用時点で調香師になれることが確定するわけではありませんが、入社後や適性によっては調香師への道が開ける場合もあるのです。調香師になるためのチャンスが得られる就職先として、下記のような分野の企業が挙げられます。

<調香師を目指せる就職先の一例>
・食品メーカー(加工食品・飲料・菓子類・調味料など)
・化粧品メーカー(香水・石鹸・シャンプー・リンスなど)
・化学メーカー(粉末香料・油溶性香料・カプセル香料・食品用香料など)
・日用品メーカー(入浴剤・制汗剤・芳香剤・歯みがき粉など)

調香師になった後のキャリアプラン

現時点では、調香師そのものが日本ではまだまだ希少な存在。そのため、調香師になった後のキャリアプランには事例が少ないのが実情です。ここでは、調香師になった後に想定できるキャリアプランをいくつかご紹介しましょう。

フリーランスに転身

ヒット商品を手掛けるなど調香師としての優れた実績を上げていけば、フリーランスの調香師に転身して個人で活動できるようになるでしょう。フレグランスを販売する企業から指名されて商品開発に携わっていくこともありえそうです。むしろ、特定の企業に所属しないことで、さまざまな商品の開発を手掛けるチャンスが得られるでしょう。

みずからブランドを設立

調香師としての経験や実績をもとに、自身のブランドを立ち上げて商品を開発・販売していく道もあるでしょう。自社ブランド商品として販売するほか、国内外のセレブに愛されている香水を作るブランドとのコラボレーション商品をプロデュースする方法もあります。

調香師の教育者・指導者になる

調香師になるためのルートは、まだまだ十分に確立されているとは言い難いのが現状です。そこで、自身の経験をもとに、大学や専門学校で後進を育成するのも魅力的なキャリアといえます。そこから、さまざまな企業で調香師として活躍する人材を輩出できるかもしれません。

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香りを楽しむ女性

 
調香師は香りを作り出す専門家であり、食品や化粧品など私たちにとって身近な製品の香りを手掛ける仕事です。言葉では表現できないことも多い嗅覚。化学や薬学の知識を総動員して魅力的な香りを作り出す調香師は、まさしくスペシャリストです!
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