快適な住環境を世界に届ける
LIXILグループは、戸建・集合住宅からオフィス・商業施設まで、さまざまな建材・設備機器と住関連サービスを提供するグローバル企業です。グループの中核となる(株)LIXILは、2011年に日本の主要な建材・設備機器メーカー5社*が統合して誕生しました。以後も海外企業の統合を進め、現在は全世界で70,000人以上の従業員が働いています。
統合した各社の歩みは、近代日本の住環境の歴史に重なります。人々の暮らしを快適に豊かにしたいという思いが、水洗トイレやアルミサッシ、システムキッチンなど、今では当たり前になった日本の住環境の一端を担ってきたのです。
*トステム、INAX、新日軽、サンウエーブ、TOEX(旧 東洋エクステリア)の5社
LIXILとSDGs
2011年の企業統合後、企業規模が拡大し、経営体制も変化するなか、グループとしてのCR(社会的責任 Corporate Responsibility)方針や推進体制について検討を重ねてきました。そして、2016年3月に新たなCR戦略を公表したところです。そこでは「世界中で革新的かつ責任ある活動を通して生活の質向上に貢献することで、最も信頼される企業となる」を理念として、大きく3つの優先取り組み分野を決めています。
1つ目は「グローバルな衛生課題の解決」。子どもの感染予防を進め、とくに女性や女児が安全な衛生施設を利用できるよう、2020年までに1億人の衛生環境を改善することを目標としています。2つ目は「水の保全と環境保護」。私たちの事業活動のすべての過程において、水やエネルギーなどの資源の保全に努め、2030年までに「環境負荷ネットゼロ」を実現します。そして、3つ目は「多様性の尊重」。製品やサービスを通して高齢者や障がい者の生活の質の向上に貢献し、社内外の人びとの多様性を尊重していきます。
こうした理念の下、SDGsについてもさまざまな取り組みを始めています。その中から2つを紹介します。
取り組み1 簡易式トイレ「SATO」を途上国に
“24億人”とは何の数だと思いますか? これは世界中で“安全で衛生的なトイレ”を使えない人の数です。なんと全人口の3人に1人という割合です。そのうち屋外で排泄する生活をしている人は9億5千万人、劣悪な衛生環境が原因とされる下痢性の病気で5歳未満の子どもが1日に800人も命を落としています。
私たちは国際機関やNGOなどと協力して、途上国のトイレの環境改善に力を入れています。その1つが「SATO(Safety Toilet)」プロジェクトです。SATOは2013年に初めてバングラディシュで発売された簡易式トイレで、排泄物による臭いと感染症を防ぎます。設置は簡単で、洗浄に使う水もごくわずかです。「トイレがきれいになった」「生活が大きく変わった」と利用者にも喜ばれています。
さらに、現地の人たちの自立も視野に入れて、現地の工場で生産し、現地で販売して事業としても成り立つようにしたいと考えています。すでにインド、アフリカ、東南アジアなど14か国で120万台以上が設置され、約600万人の生活改善に役立っています。
トイレの問題は、そのほかの問題にもつながっています。戸外の排泄物は、土壌を介して飲み水に使う地下水を汚染し病気も引き起こします。学校にトイレがないと、女の子は生理が始まるころから学校に行きたがらなくなり教育の機会を失われます。また、人目のない戸外で用を足すため人や動物に襲われる危険も伴います。トイレがないことによる時間の損失、生産性の低下、病気による医療費や死亡の増加などを研究機関と調査分析した結果、その経済的損失は年間約22兆円という数字も出ています。
また、日本は水が豊かな国ですが、地球規模で見れば水の7割は海水で、淡水も氷や地下水の割合が高く、生活水として使える量はごくわずかです。さらに、農産物や工業製品を作るためには大量の水が必要です。輸入に頼る日本は、その生産過程で世界の水を奪っているのです。
このように、トイレや水から見えてくるさまざまな問題について社会に情報を発信すると同時に、未来を担う子どもたちに伝えることも私たちの役割です。そこで、営業スタッフなどの社員が講師を務める「出前授業」も行っています。不衛生なトイレ環境の問題や、水の大切さについて、子どもたちは真剣に耳を傾け、多くのことを考え、学んでくれています。
▼SATOのしくみ
▼設置場所に合わせて、形や施工方法も変えて対応している
取り組み2 ユニバーサルデザインから多様性社会を学ぶ
近年は、街の階段や歩道などのバリアフリー化もずいぶん進みました。私たちは、それに関わる製品をたくさん作っています。そこで、ユニバーサルデザインを題材に「ひとりにいい、みんなにいい」という出前授業プログラムを作りました。
子どもたちに多機能トイレのイラストを見せて「手すりやベビーチェア、ここにはどんな秘密があると思う?」と問いかけ、自分で答えを考えてもらいます。多機能トイレの工夫には、内部障害によって排泄機能に障害がある方が使うオストメイト(人工肛門)用の洗浄機器など、大人の方にもあまり知られていないものもあるんですよ。
このプログラムも、ほかの出前授業と同様に、全国の営業所のスタッフなど、ふだん直接CR活動に関わっていない社員にも講師を担当してもらっています。社員にとっても年齢や性別、国籍、障がいの有無や価値観の違いなどにとらわれず、多様な人が快適に安心して暮らせる“ユニバーサル社会”について理解を深める機会となります。
弊社も2011年の統合によって社内環境が大きく変わり、社歴や国籍の違う社員がともに事業を進めていくことになりました。その意味でも、多様性というキーワードは事業展開の上で欠かせないと感じます。広い視野で、新しい感性や価値観も柔軟に取り込み、それを社内にしっかりと根付かせることは企業にとっても重要です。
右利き左利き、背が高い低いといったことも個性だということ、常に相手の立場に立って考えること、障がいに配慮した製品は健常者にとっても使いやすくなるといった話をしながら、多様性をどうやって子どもたちに伝えていくか、社員も考え工夫しています。
▼授業で使われているスライド教材の例
▼スライドを使った出前授業の様子
国境を越えて、企業の強みをSDGsに活かしたい
企業の責任は、自分たちの強みを活かして社会課題をどう解決していくかということです。だから、商品を作ることも売ることも社会とつながっていると感じます。
そして、LIXILが持っている技術やネットワーク、ノウハウを社会課題の解決に役立てて、それがビジネスとして動くようになれば、社会課題の解決と私たちの事業が重なり合って持続的な取り組みになります。それは、社員のやる気にもつながります。
また、企業は国や自治体のように地域の境界に強く縛られることがありません。境界を越えて、世界中の現場に直接アプローチできるし、まさに地球的な感覚で活動できます。SDGsにおいても、そうした強みが私たち企業に期待されている大きな役割だと考え取り組んでいます。