持続可能な開発目標

7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに

エネルギーをみんなに そしてクリーンに

すべての人々が安価で信頼できる現代的なエネルギーサービスを使えるようにします。再生エネルギーの効率を高め、世界全体のエネルギー使用量における比率を上げるとともに、その普及のための投資や技術革新を進めます。

9 産業と技術革新の基盤をつくろう

産業と技術革新の基盤をつくろう

持続可能な社会で災害に強い社会基盤を作り、すべての人々の経済発展と安全で健康な暮らしを支援し、インターネットの普及を進めます。小規模事業や途上国に対する融資や技術支援、新たな産業や技術の創出を支援します。

12 つくる責任 つかう責任

つくる責任 つかう責任

天然資源の適切な管理、食品廃棄物の半減、リサイクル・リユース・リデュースによる廃棄物の削減を進めます。また、製品の生産・流通・廃棄の過程を適切に管理して環境や健康に悪影響を与えないようにします。

国際連合広報センター:持続可能な開発目標(SDGs)特集ページ

テーマ

認証制度で進める、持続可能な生産と消費

私の研究テーマの1つに「SCP(持続可能な消費と生産)」の促進があります。SCPとはSustainable Consumption & Productionの略。社会の消費や生産方法をより資源効率が高く、低炭素で持続可能なものに変えていこうという考え方です。2012年に開かれた「リオ+20(国連持続可能な開発会議)」では、SCPを推進するための10年間の行動指針も示され、それはSDGsのゴール12「つくる責任 つかう責任」に取り込まれて世界全体で推進していく事になっています。

では、“持続可能な消費と生産”を推進するにはどうしたらよいか。それには、消費と生産をどうつなげるかがカギになります。
そこで私が注目しているのが“認証制度”。製品の生産や流通の過程を消費者に伝えるしくみです。たとえばエコマークは、その製造過程を知らなくてもエコマークのついた商品を選べば環境に配慮した消費ができるし、生産者も自社が環境に配慮しているとアピールできるしくみです。

同様に、国際的な木材の認証制度「FSC」があります。これは木材を生産する森林や流通において適切な管理をしたものに与えられます。現在では公共財の入札条件などにもFSC認証取得が検討されるなど、広く利用されています。身近なところでは、木材を原料とした紙製品などにもFSCのマークを見かけます。

エネルギー認証の成功例の1つとしては「LEED」という国際規格があります。これは不動産の建物や敷地のエネルギー効率、断熱性能などを評価して与えられる認証です。これを取得することで不動産の持続可能性を示すことができ、イメージアップはもちろん、不動産価値を上げて家賃を高く設定できるなど、大きな経済的価値も生んでいます。

グローバル社会の“つかう”と“つくる”をつなぐ

経済がグローバル化すると、国ごとで割り切れない問題も増えてきます。たとえば、温暖化の要因となるCO2の排出量は、パリ合意で国ごとに設けています。しかし、これでは中国の工場で出たCO2は中国の排出量としてカウントされ、できた製品を使っているのは日本といったことも起こります。
このように、作る側と使う側が違う場所にいるグローバル化社会では、その間をつなぐしくみとしても認証制度が重要になるのではないかと考えています。

たとえば、ダイヤモンドには「キンバリー・プロセス」という原産地の証明制度があります。現在、ダイヤモンドの生産地はカナダやロシアに広がっていますが、90年代のおもな生産地はボツワナやアンゴラ、シエラレオネなど内戦にさらされた国々でした。そこでは反政府組織がダイヤを採掘し武器購入資金に充てていて、それを防ぐためにこの制度を作ったのです。
コーヒーやチョコレート、衣類などについている「フェアトレード・ラベル」は、開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することで、立場の弱い途上国の人々の生活の安定と自立をめざしています。
また、認証制度ではありませんが、1992年に発効されたバーゼル条約は、先進国で制限されている有害物質が、開発途上国に輸出されることを防ぐために設けられた、締結国間の輸出手続を規定したものです。とくに、使用済みの電子・電気機器には鉛や水銀、プラスチックなどの有害物質や自然分解されない物質が含まれていて、それが不法な輸出と不適切な処理によって途上国の環境汚染につながっていたのです。

FSC認証マーク

LEED認証マーク

フェアトレード・ラベル

小さな技術が途上国を大きく変える

再生可能エネルギーの普及も、私の近年の研究テーマの1つです。
風力や太陽光、地熱、バイオマスといった再生可能エネルギーの技術と、それらのエネルギー効率の改善を、途上国にどう普及させていくかという研究で、日本の産業界にとってはビジネスチャンスにもなります。

日本の再生エネルギー技術には、アジアに貢献できるものが数多くあります。とくに地熱発電、火力発電所や製鉄所のエネルギー効率改善技術などは非常に進んでいます。また、水車のような小水力発電の技術も日本は優秀です。安定的で環境に対する負荷も低いため、とくに途上国への技術移転には有効だと考えられます。

また、日本が得意な技術として、途上国の農村部などで役立ちそうな小さい技術があります。たとえば、パナソニックの「ソーラーランタン」は太陽光を使った安価でクリーンな灯りです。実際に削減できるCO2排出量は小さくても、社会や教育にいい影響を与える有用な技術です。パナソニックは、これを途上国の無電化地域に寄贈して生活改善を支援しSDGs的な効果も発揮しています。

社会貢献できる収益事業をつくる

近年、アメリカの経済学者マイケル・ポーターが提唱した「CSV(creating shared value)」という考え方があります。
これまで企業は、その利益の一部を使って地域社会に役立つ事業などを支援することで社会的責任を果たしてきました。一方、CSVでは、企業本来の事業によって同時に社会貢献もしようというのです。

たとえば、住友化学の「オリセット®ネット」は、ポリエチレンに薬剤を浸透させた虫除け効果のある蚊帳で、本来は工場の虫除け用に開発されました。住友化学はその技術を使って蚊を除けるマラリア予防の蚊帳を作り、WHOを通して全世界に供給しています。
また、雪国まいたけはジェトロやJICAと協働してバングラディッシュで緑豆もやしの大規模栽培を行っています。栽培したもやしは日本に輸入し、現地への労働提供と自社の安定したもやしの供給を進めています。

このような取り組みも、作る側と使う側を結びつけて、持続可能な生産・消費を行うひとつの有効なしくみです。

パナソニックのソーラーランタン。
天井から吊り下げれば大きな勉強机もしっかり照らせる。

住友化学の防虫剤処理蚊帳(かや)「オリセット®ネット」

“ソウルサーチング”の時間も大切に

SDGsは1つの学問体系では捉えられません。17のゴールの達成も大事ですが、それぞれのゴールのつながりを理解することも重要です。ですから、1つの学問体系にとどまらず、いろいろなことに興味を持って欲しいと思います。

私自身、現在の研究にたどり着くまでは、さまざまな紆余曲折がありました。 大学に入る前は、ベルリンの壁の崩壊などをニュースで見て、ジャーナリズムや国際関係に興味を持ちました。大学は法学部に進みましたが、そこで国際法に関心を持ち、大学3年時に海外留学制度を利用してカリフォルニア大学に行き国際関係論を学びました。初めて現実主義、国際レジーム論といった国際関係の理論に触れ、国家間の協力に関わる仕事がしたいと思いました。
帰国して大学院で研究をするなかで、地球環境問題の交渉では経済が大きなカギを握っている事を知り、コロンビア大学で経済や政治を広く扱う公共政策を学びました。さらに、米国の環境格付け会社で働いたり、日本の証券会社で企業のCO2排出権取引のコンサルティング担当として東南アジアや東欧のエネルギー事業の現場も見てまわりました。

大学に行って何を学ぶのか、高校生は分からなくても当然だし、大学に入って興味が変われば転部や転校を考えてもいい。最初はあまり気負わずに、興味のあることにどんどん挑戦してみてはと思います。アメリカでは“ソウルサーチング=魂を探す遊びの時間”を大事にしろと言います。学問のソウルサーチングも無駄ではありません。

それから皆さんには、これからのエネルギー、原子力の代わりに何があるのかも考えてもらいたい。同時に、所有欲や生活の質に100%を求めずとも満たされるような価値観にシフトすることも大事かもしれません。私も研究や技術を通して、そうしたところにアプローチしていきたいと思います。

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鈴木 政史 教授

上智大学大学院 地球環境学研究科

鈴木 政史 教授

私の専門は環境経営学です。近年は、企業の環境やエネルギー経営戦略、クリーンエネルギー技術とその普及、持続可能な開発や消費・生産などについて、経営と政策の2つの視点から研究を進めています。ドイツの国連気候変動枠組み条約事務局やニューヨークの国連事務局経済社会局でコンサルタントなどを務めた経験を活かし、政策に近い研究課題にも取り組んでいます。
環境経営では、さまざまな学問知識が問われます。エネルギーなら技術的知識、経済や政策、法律の知識も必要です。大学では1つの学問体系に留まらず、いろいろなことに興味を持って学んでください。

推薦図書

『ソーシャルビジネス入門 「社会起業で稼ぐ」新しい働き方のルール』 ベン・コーエン、マル・ワーウィック (日経BP社)

教授Profile

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