“誰も置き去りにしない”持続可能な社会へ
SDGsは、2015年の「持続可能な開発サミット」で採択された、世界の国々が取り組むべき「持続可能な開発目標(SDGs)」です。「グローバルゴール」とも呼ばれます。
これは、国連で取り組んできた「MDGs(ミレニアム開発目標)*」を引き継ぎ、新たな開発目標を持とうというもので、2012年に開催された「リオ+20(国連持続可能な開発会議)」へ向けてコロンビア・グアテマラ政府によって提案されました。
MDGsは世界の貧困をなくすために8つのゴールを掲げ、おもに途上国の経済問題を対象に取り組みを進めてきました。一方、SDGsは経済だけでなく環境や社会の分野も加えた17のゴール**を設定し、先進国もいっしょに課題を解決して“誰も置き去りにしない”持続可能な社会を実現しようとしています。
以来、SDGsに対する社会的関心は非常に高まっています。私自身も近年はSDGsが持つ意味や可能性、社会への影響などが研究のメインテーマになってきています。
* MDGs:ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals)
2000年、国連で採択された「ミレニアム宣言」による「平和で繁栄した公正な世界」「貧困の撲滅」などを実現するための目標。
**SDGs:17の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)
SDGsを推進するための“枠組み作り”
SDGsが掲げる17の目標を達成するためには、MDGsを推進してきた外務省をはじめ、環境省、経産省など、各省庁が連携して進めることが重要です。
たとえば、食品廃棄物を削減するなら、廃棄物を担当する環境省はもちろん、食品加工を担当する農林水産省の役割も必要です。食品を作るためには水をたくさん使いますから水を管理する国土交通省なども関わってきます。そうした関係省庁が連携して調整できるSDGs推進チームのようなしくみが課題ごとにできれば一番いいと考えています。
SDGsの達成には、認証制度のようなしくみも役立ちます。環境に配慮した商品を選ぶためのエコラベルのようなものを、SDGsを基準にして整備するのです。女性の社会参画に結びついたラベルだとか、貧困の削減に貢献するラベルなど、新しいSDG認証制度を広げていくことで、企業や消費者もSDGsに参加しやすくなるはずです。
また、SDGsの17のゴールの相互関係も整理する必要があります。なぜなら、そこには実際に施策を進めようとしたときに、持続可能性にプラスに働くものとマイナスに働くものが混在しているからです。
たとえば、ゴール7のエネルギーの施策のなかには「安価で信頼できる現代的エネルギーへのアクセスを増やす」という項目があります。安くて安定したエネルギーといえば石炭ですが、石炭ばかりを増やすとCO2の排出量も増えてしまい、ゴール13の「気候変動への対策」にはマイナス効果です。再生可能エネルギーを使えば良さそうですが、価格や信頼度が安定していないので新たな施策が必要になります。
このように、SDGsという目標はできましたが、じつはそれを実行する枠組み作りはこれからの仕事です。国、自治体、研究者、企業、NGOなどが協働しながら、今まさにその研究を進めているところですが、それが明らかになれば具体的な政策や制度も作ることができます。
そして、研究者としては、その枠組み作りの過程に最初から関わることができるというおもしろさもあるのです。
SDGsの各目標の相関性
(出典)UN(2015b)“Global Sustainable Development Report”より筆者翻訳
オリンピックを、持続可能な開発に!?
SDGsは現実的な問題解決が重要ですから、世の中のどんなところにSDGsの課題があり、それがほかの課題とどうつながっているかを知ることが大事です。
身近なところでは、“オリンピック”のなかにもSDGsの課題はたくさん見つかります。オリンピックは、さまざまな施設や物事を生み出す巨大な“開発”プロジェクトです。しかし、近年は開催後の“負の遺産”が問題となり、開催候補に手を挙げる国も激減しています。では、オリンピックを“持続可能な開発”プロジェクトに変えるにはどうしたらいいでしょう。
たとえば、環境を考えれば、施設のリユースやリサイクル。施設に環境に配慮した資材を使う。廃棄物の処理も検討すべきでしょう。まちづくりの視点なら、交通やエネルギーのシステム、開催時に災害が起きた場合の備蓄なども重要です。ジェンダー平等の視点で見れば、組織委員会の役員に女性を増やすといったことも考えられます。
私たちも実際に何ができるか検討を始めています。たとえば、オリンピック選手の事前トレーニング地の選定基準のなかに、「持続可能なまちづくり」を条件として入れたらどうかという話も提案しています。
現段階で、多くの提案を取り込むことは難しいかもしれませんが、水素や再生可能エネルギーの活用などを試す良いチャンスにもなるし、「TOKYO2020」が持続可能なオリンピックの発信の場になれば素晴らしいと思います。
「キャンパスSDGs」で身近なSDGsをチェック!
高校生なら、自分の学校や地域でSDGsを探してみてはどうでしょう。私の研究室でも「キャンパスSDGs」と題して、キャンパス内で見つけたSDGsに、関連するゴールのマークとその意味を説明したシールを貼る取り組みをしました。
たとえば、手洗い場には「6.安全なトイレと水」のマークと節水のお願い、ゴミ箱には「12.つくる責任 つかう責任」のマークと分別の呼びかけ、食堂には「2.飢餓をゼロに」や「8.働きがいも経済成長も」のマークに食品廃棄やフェアトレードの説明をつけるといった具合です。
小さなことでも、それが世界の課題解決につながることを知ってもらい、いっしょに行動してもらうことが目的です。
今までは、さまざまな開発に関わる持続性を意識しなくても、地球という大きな器のなかで何とかなっていました。しかし、グローバル化によって多様性が増え、人口も経済規模も急上昇し、いまや人間の活動は地球の容量では許容できなくなってきたのです。今までと同じことを続けていたら資源は取り合いになり、政治的にも不安定な世界になるでしょう。
SDGsは、その危機的状況を回避するための目標です。私たちの行動を地球とつなげてくれる1つのアイデアボックスと言えるかもしれません。
「キャンパスSDGs」の呼びかけポスターと実施例
選択の“少し先”を考えることを忘れずに
私は小学生のころから国際機関で働きたいと思っていました。じつは、小学生のころに2年ほどインドネシアに住んでいて、そこで格差の現実を知ったからです。私は家族と恵まれた生活をしていましたが、一方で川をトイレや食器洗いに使うような生活が普通にあって衝撃を受けました。以来、そういう状況をなくす仕事ができればという気持ちがずっとあったのです。
そのために、大学は法学部がいいのか政治学部なのか。それとも医学や工学を学ぶ方が有利なのかと悩んでいたときに、慶應義塾に湘南藤沢キャンパス(SFC)ができたと聞き、パンフレットの“問題解決を考える”というコピーにひかれて受験を決めました。
大学では総合政策学部で国際機関をめざして勉強をしましたが、国連で働いた経験のある先生から「新卒で就職するより、まず研究者として一本立ちする方がいい」と言われ、大学院でグローバルガバナンスの研究を始めました。
そして、結局、現在も大学で研究を続けています。しかし、今でも国際機関で働いてみたいという気持ちはあります。それには研究者としてもう少し業績を積みながら機会を待とうと考えているのです。国際機関は博士学位をもっている人がほとんどなので、新卒にこだわることはありません。
今後、SDGsはビジネスでも政治でも必須の課題となりますから、その考え方を頭に入れておくことは将来、必ずプラスになるはずです。
そして、何事においても“その先を考える”ことを大事にしてください。課題を解決するとき、それがその先まで続く方法かどうか。少し先の世界を想像して見ることが、人生にとってもSDGsにとっても良い結果を生んでくれると信じています。